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MAD LIFE 147

10.思いがけない訪問者(10)

4(承前)

「奴ら?」
「追われてるの、あたし」
 胸のふくらみが背中に当たる。
「追われてるって……誰に?」
 中西はどぎまぎしながら尋ねた。
「パパの雇った殺し屋」
 真知が声をひそめて答える。
「はあ?」
 思わず吹き出してしまった。
「なにがおかしいの?」
 真知がこぶしで背中を叩く。
「殺し屋って……赤川次郎の読みすぎなんじゃないのか?」
「嘘じゃないわ。……確かに殺し屋っていう表現はちょっとオーバーだったかもしれないけど」
「ほら、やっぱり」
「あたしを追ってきたのはやくざ」
「え?」
「あ、来た」
 真知は中西のそばを離れ、さらに部屋の奥へと駆けていく。
「お、おい」
 真知を呼び止めようとしたそのとき、玄関のドアが激しく叩かれた。
「は、はい」
 玄関まで戻ると、乱雑に脱ぎ捨てられた真知の黒いスニーカーが視界に入った。
 慌ててその靴を拾いあげ、靴箱の奥へと放り込む。
「開けろ!」
 どすのきいた男の声がドアの向こうから聞こえてくる。
「今、開けます」
 中西は軽く息を吸い、腹に力をこめてからドアを開けた。
 見るからにガラの悪そうなふたり組が立っている。
 真知がいうとおり、ヤクザなのだろう。
 普通の男なら震えあがっていたに違いない。
 だが、中西は怖いもの知らずな上に無鉄砲な性格だ。
「どちら様ですか?」
 これから起こるであろう非日常的な出来事に胸をときめかせながら、中西はいった。

 (1986年1月6日執筆)

つづく

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