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MAD LIFE 266
18.〈フェザータッチオペレーション〉の正体(10)
2(承前)
「お前は死ぬんだ!」
俺は引き金を引いた。
そのときの光景が、別の景色とダブる。
五年前、突然自宅に戻ってきた兄――立澤栄。
おまえに渡す金はない! と怒鳴る父。
どうしても貸さねえっていうのか? と父を睨む兄。
――当たり前だ! どうして貴様に金など!
親父は怒鳴った。
次の瞬間、兄貴はバットで両親を殴り殺していた。
俺は……
あの日の惨劇を思い返しながら、窓の外を見つめる。
俺はいつの間にか、兄貴と同じように壊れちまった。
自分自身に対する計り知れない恐怖心。
「ああ……」
俺はなにをやっているんだ?
怖い! 怖い! 自分が怖い!
車はトンネルに入った.
自分の顔が窓ガラスに映る。
兄貴にそっくりだ、と浩次は思った。
俺はこのまま、兄貴と同じ運命を辿ることになるんだろうな。
ガラスの向こうの俺が――いや、兄貴が笑った。
こっちへ来い、と手招きする。
我慢する必要なんてない。
好きなように生きればいいんだよ。
この世は強い奴が勝つんだ。
邪魔者は排除すればいい。
悪に染まれ。
俺のように。
「やめろ!」
浩次は大声で叫ぶと、右手の拳で窓ガラスを破った。
「なにしてるんだ? 間瀬!」
金井がそう叫んだとき、浩次は車外へと飛び出していた。
慌てて急ブレーキを踏む。
すぐ後ろから、鈍い音が響いた。
(1986年5月5日執筆)
つづく
この日の1行日記はナシ