MAD LIFE 372
25.最後の嵐(7)
3(承前)
そのとき、ナイフは倉庫の壁に当たり、跳ね返って、ちょうど俊の足元に転がってきたのだった。
俊はふたりに気づかれぬよう、脚を伸ばしてナイフを手に入れると、刃の先をロープに押し当てた。
ナイフを静かに動かし続ける。
両手の使えない彼にとって、それはひどく困難な作業だったが、ロープは確実に緩み始めていた。
あと少し……ということで銃声が轟く。
俊は驚いて顔を上げた。
目の前でふたりの人間が同時によろめく。
郷田と浩次だ。
「郷田!」
八神が悲痛な声で叫ぶ。
「大丈夫か? 郷田」
俊は両腕に力をこめた。
ロープの切れ目がゆっくりと裂けていく。
俊は歯を食いしばり、ロープを引っ張った。
彼の自由を奪っていたロープがついに切れる。
よし!
俊は笑みを浮かべた。
あとはチャンスを待つだけだ。
4
旧埠頭に集まった大勢の人々。
今は使われていない十七番倉庫の前には八神と、彼にナイフを突きつけられて人質になっているふたり――俊と真知が立っている。
そのそばには銃弾に倒れた中西と、彼の安否を気遣う洋樹の姿。
さらに、そこから二十メートルほど離れた場所に、郷田と浩次が倒れていた。
そして、埠頭のはずれでは――。
(1986年8月19日執筆)
つづく