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MAD LIFE 269
18.〈フェザータッチオペレーション〉の正体(13)
3(承前)
「パパの会社に中西さんっているでしょう」
「中西?」
思いがけない質問に戸惑いを覚える。
「中西……営業部の中西望か?」.
「そうそう、その人」
真知は嬉しそうにいった。
「そいつがどうした?」
首をひねりながら娘に尋ねる。
「どんな人?」
真知は徹の身体にすり寄ると、甘えた声を出した。
高いものをおねだりするときによく使う手だ。
「どんな人って……よく知っているわけじゃないからなあ」
「でも、少しはわかるでしょう? ねえ、どんな人?」
「そんなこと、急にいわれてもなあ」
なんだか嫌な予感がする。
徹は眉をひそめた。
長崎江利子はその日のニュースを街なかで聞いた。
店頭に置かれたテレビが、繰り返し間瀬浩次の名を口にする。
「逮捕されちゃったんだ……」
江利子はぽつりと呟いた。
私の愛した人。
私のひとことがあの人の人生を狂わせて、その結果こんなことに……。
いたたまれない気持ちに押しつぶされそうになる。
『ただいま入りましたニュースです』
アナウンサーの声を背中に浴びながら、江利子はその場を離れようとした。
『今朝六時頃、麻薬密輸の疑いで逮捕された間瀬浩次容疑者が、警察へと向かう車両から飛び降り、対向車線の乗用車に撥ねられて――』
立ち止まり、息を呑む。
そのあとのアナウンサーの言葉はもうなにも入ってこなかった。
(1986年5月8日執筆)
つづく
この日の1行日記はナシ