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MAD LIFE 145

10.思いがけない訪問者(8)

4(承前)

 可愛い女の子だとは思っていた。
 でも、それだけだった。
 年下の友人程度に感じていたはずなのに、いつの間にか中西の中にはそれ以上の感情が芽生え始めていたらしい。
 瞳とは五回ほど遊びに出かけた。
 あれはデートだったのだろうか?
 いや、そんな恋愛じみたものじゃなかった。
 俺はただ、瞳のお守りをしていただけ。
 ……本当か?
 心の中からもうひとりの自分が問いかけてくる。
 瞳と話すときのおまえはやけに楽しそうだったぞ。
 好きなんだ。
 おまえはあの娘のことを愛してるんだよ。

 玄関のドアが強く叩かれる。
 中西は我に返った。
 右手首にはめた腕時計に目をやる。
 午後十一時半。
 こんな時間に一体、誰だろう?
 母親は昨日から、カラオケの集いと称した一泊二日の旅行に出かけており、家にいるのは中西ひとりだ。
 再び、ドアが乱暴にノックされた。
「今行きます」
 中西は大声で叫ぶと、しわくちゃになって部屋の隅に放り出されていたズボンを慌てて穿いた。
「すみません! 開けてください!」
 若い女性の声が外から聞こえてくる。
「お願い! 早く!」
 ひどく慌てた様子だった。
 しかも、ほぼ泣き声に近い。
「なんなんだよ?」
 ドアを開けると、彼女は家の中へ勢いよく転がり込んできた。
「あ、あの……」
 中西は突然の事態に、口をもごもごと動かした。
「すみません。どちら様――」
「早くドアを閉めて!」
「は、はいっ!」
 いわれるがまま、ドアに鍵をかける。
 どうして俺が怒鳴られなくちゃならないんだ?
 なにがなにやらわけがわからない。

(1986年1月4日執筆)

つづく

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