MAD LIFE 315
21.ワーストチャプター(12)
4(承前)
ドアを開け、兄の病室へと入る。
ベッドに横たわる浩次の横には、椅子に腰かけて女性雑誌を読む江利子の姿があった。
瞳は江利子に小さく会釈をしたあと、ベッドに近づいた。
「お兄さん……」
喉の奥からかすれた声が漏れる。
兄が家を飛び出してから、これが三度目の出会いだ。
浩次は寝返りを打ち、ゆっくりと瞳のほうを向いた。
「……身体の調子はどう?」
ぎこちない口調で彼に尋ねる。
「最悪だ」
浩次は自嘲気味に答えた。
頬はこけ、目は虚ろ。
昔の面影はどこにもない。
「ひさしぶりだな……瞳」
以前と変わらない声にも、なぜか嫌悪感を覚えた。
――人殺し
イヤでも、その言葉が脳裏を駆け巡る。
お兄さんは変わってしまった……そう……この人に会ってから。
横目で江利子を見る。
この人がお兄さんを騙したから……だから、お兄さんの人生は狂ってしまったんだ。
なぜ、お兄さんを滅茶苦茶にした女がここにいるのだろう?
唇を尖らせた瞳に、
「おまえに話がある」
浩次はいった。
5
「ただいま」
重たい鞄を廊下に放り出し、その場に座り込む。
ひどく疲れていた。
洋樹は自分の肩を叩き、ため息をこぼした。
(1986年6月23日執筆)
つづく