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海が見たくなる季節 8
5(承前)
――ママが悪かったの。ごめんね、坊や。つらかったでしょうね。苦しかったでしょうね。でも、もう大丈夫。安心して。無理にここで暮らす必要なんてないのよ。
「そうなんだ、ママ。僕……こんな世界、嫌だ。ゆがんでる。ゆがんでるよ、この世界は」
いつの間にか僕は生まれたままの姿に戻って、海の中に沈んでいた。
――怖くないわよ、坊や。さあ、こっちへいらっしゃい。
ママにやさしく抱きしめられる。
ああ、きもちいい。ここはママのおひざのうえ。
ママ。ぼく、もうどこへもいかないよ。
ママ、だーいすき。
――ママもあなたのことが大好き。
このてをはなさないでね。
――ええ、離すものですか。あなたはママの宝物。一生、ママのそばにいてちょうだい。
ママ、ママ、ママ。
僕の手は必死にママの乳房を探した。
――お腹が空いたの?
うん、ママ。
ママの乳房に触れる。
やわらかい……
ママ……ぼくのママ……
僕は静かに目を閉じた。
気持ちいい……ここはてんごくだ……ママのやわらかいからだ………あたたかいといき……はだからはだへとつたわるぬくもり……
あぶくになる
あぶくになる
ぼくはあぶくになるんだ
「待ちなさい!」
……だれ?
「幹成さん、目を覚まして! 幹成さん!」
あなたはだれ?
ぼくねむいんだよ
じゃましないでよおねがいだから
「お願い、目を覚まして、こちらへ戻ってきて!」
いきなりてをひっぱられたいたいいたいいたいやめてよはなして
――坊や!
ままがよんでるはなしていやだままにあいたいままからはなれたくないよおたすけておねがいたすけてたすけてまままままま
僕はもがいた。
ママ!
ママ!
ママ!
「……気がついた?」
僕は砂浜に寝転がっていた。
僕の顔を覗きこんでいたのは、昼間旅館で出会った少女――由利さんだった。
つづく
※読みやすくするため、原文に多少の修正を加えております。