
ノセトラダムスの大予言06
2(承前)
能勢のいかさまに気づいた晶彦は、まずそのことを亮介と治樹に打ち明けた。
「ソフトボールや水泳大会の結果予想は偶然当たったんだと思う。そのことで超能力者だ、予言者だってみんなに騒がれたもんだから、味をしめたんだよ。ほら、夏休み明けに起こったイヤリングの事件。あれだって先生が隠したんだとしたら、予言なんて簡単にできたわけだしさ」
「なるほど、そうだよな。ピーコの話だっておかしいと思ったんだ。川のそばにいるってわかったからって、相手は鳥だろう? そう簡単につかまえられたはずがないもんな。でも、能勢が最初から隠し持っていたんだとしたら、なんの不思議もないや」
亮介は眼鏡のつるをいじりながら、「許せないな。純情な俺たち子供の心を踏みにじりやがって」と憤慨の表情を見せた。
「でもそれ以外の予言はどうなるの? 二学期にユリが転校してくることや、秋の遠足でどこへ行くかってことまで、先生は予言したよ」
治樹は信じていた能勢の超能力がでたらめだと聞かされたショックからか、半分泣きべそをかいていた。
「馬鹿、治樹。あれは予言じゃねえよ。そんなの最初から知っていたに決まってるじゃんか。それを『可愛い女の子の姿が見える。君たちと同じくらいの歳かな。この教室でみんなと一緒に勉強している。おかしいね。見覚えのない顔なのに……』とか、いかにも予言らしく答えて演出してみただけさ」
亮介が口をとがらせながらいう。
「だけど、ほかにもあったよ。亮介の家に入ったこそ泥がすぐに警察につかまっちゃうことも予想したし……それにほら、大晦日の紅白歌合戦でどちらが勝つかだって見事にいい当てただろう?」
「紅白歌合戦で紅が勝つか、白が勝つかなんて五十パーセントの確率だからさ」
晶彦は答えた。
「泥棒がつかまるか、そうじゃないかだって五十パーセントの確率だ。ううん、日本の警察は優秀だから、つかまる確率のほうが圧倒的に大きい。先生の予言はいつも百パーセント当たっていたわけじゃないだろう? はずれることだってあった。亮介の家に忍び込んだこそ泥や、紅白歌合戦の勝敗はたまたま予想が当たっただけのことさ」
三人で話し合ったことにより、なおいっそう能勢の超能力がいかさまであることに自信を持った晶彦は、彼の予言がまったくのでたらめであることを、クラスメイト全員に告げた。
「なんだ。やっぱりいんちきだったんだ」
晶彦の理路整然とした話を、級友たちは素直に信じた。いくらなんでも、ピーコの件ができすぎだということに、誰もが薄々感づいていたのだろう。晶彦はできるだけの悪意を込め、能勢のやったことを皆に伝えた。「先生のやったことは僕らに対する裏切りだ」ともいった。
人気者でありたいと思う能勢の気持ちもわからないわけではなかった。イヤリングの件は多少行き過ぎだった感はあるものの、能勢はとくに誰に迷惑をかけたわけでもない。ただ、自分の教え子たちを驚かせてやりたかっただけなのだろう。晶彦だってそれを純粋に楽しんでいた時期もあった。
超能力だと思っていたものが、実はタネも仕掛けもある手品だった――ただそれだけのこと。「裏切り」という言葉を使ったが、晶彦自身、別に能勢に憤りを感じていたわけではなかった。
ではなぜあそこまでムキになって、能勢を糾弾したのか? その理由も今ならはっきりと理解できた。
ユリの存在だ。
晶彦はただ彼女に振り向いてほしかっただけなのだ。能勢に夢中になっているユリの目を覚ましてやりたかった。
しかし結局、その企みは成功しなかった。クラスメイトのほとんど全員が能勢を「裏切り者」と呼ぶようになったというのに、肝心のユリだけは最後まで、能勢をかばい続けた。最後まで能勢の超能力を本物だと主張し続けたのだった。
つづく