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アパレルショップ綺羅の事件簿 26

8 〈綺羅〉店内(承前)

うらら 「いいえ。犯人はプリンス晶です」

麻美  「貴様、引くに引けなくなってるんじゃないか? プリンス晶が犯人だとしたら、どうやってマネキンに落書きをしたんだよ?」

うらら 「先ほど説明したとおりです。事前に糸を結びつけておいて、ライブの最中に指先でそれを操ったんですよ」

早紀  「マネキンを倒したり、服を脱がせたりすることはできるかもしれませんけど、さすがに糸を操って、マネキンに落書きするのは無理でしょう?」

うらら 「いや、世界的に有名なギタリストですよ。器用な手先で巧みに糸を操り、マジックペンを動かして……」

   「糸を操って、離れた場所からこんなにも上手に文字を書くなんて、プリンス晶すごいね!」

   「いやいや、遥。いくらなんでもさすがにそれは無理だってば」

うらら 「そんなことありません! プリンス晶が犯人で決まり! 事件解決! これにて一件落着!」   

   「うわあ、すごいすごい」

 拍手する遥。しかし、ほかのみんなは白けた表情でうららを見ている。

   「あれ? ……みんな、どうしたの?」

   「超絶テクニックでマジックペンを遠隔操作したなんていう無理矢理な推理より、もっと現実的な答えが目の前に転がってるじゃん」

 遥とうらら以外の四人、いっせいに頷く。

うらら 「……え? どういうこと?」

仁恵  「マネキンが落書きされたとき、お店の入口にはガードマンさんがいた。その間に出入りした者は誰もいない。ということは、マネキンに落書きをした犯人は誰だったのか、一目瞭然だよね?」

 遥とうらら以外の四人、頷く。

麻美  「犯人は……マネキンが落書きされたその時間、店の中にいた唯一の人物――」

仁恵、ほのか、楓、早紀「(同時に、キラを指差して)犯人はおまえだ!」

 びくんとからだを動かすキラ。唖然とした表情の遥とうらら。

仁恵  「こんな格好で店の中をうろついてるなんて、この人、あからさまに怪しいじゃない。名探偵さん。どうしてこいつを疑おうとしなかったの?」

うらら 「え? え? だって、これってマネキンなんでしょ?」

   「マネキンがしゃべったり動いたりするわけないじゃん」

うらら 「だって、『マネキンの妖精、キラです』って自己紹介してたし……」

麻美  「まさか、貴様、それを信じたのか?」

   「え? え? そうじゃなかったの?」

仁恵  「違う、違う。(マネキンを指差して)この人はただの変な人。今朝、開店と同時に店の中へ入ってきて、『私はマネキンだ』ってぶつぶつ呟きながら、ずっと店内をうろついていたんだよ」

つづく

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