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MAD LIFE 261

18.〈フェザータッチオペレーション〉の正体(5)

1(承前)

「俺の協力って……どういうことだ?」
「おまえのいうとおり、架空の麻薬組織を作ったとしても、その存在を立澤組に報せ、信用させるのは容易なことじゃない。しかし、その組織に元立澤組のおまえがいたとしたら?」
「信用するかもしれないな」
 長崎は口元を緩めた。
「おまえは立澤組の内部事情にも詳しいだろう? おまえが組織の一員になってくれば百人力だ」
「なるほど……ね」
 長崎は吸っていた煙草を灰皿に押しつけると、意地の悪い笑みを浮かべた。
「だが、そんなことをして俺になんの得がある?」
「協力してくれたら、おまえの罪を軽くしよう」
「俺は裏切るかもしれないぞ」
「おまえはそんな卑怯な男じゃないよ」
「…………」
 長崎は中部から視線をそらした。
 どうすべきか迷っているようだ。
「頼む。協力してくれ」
「…………」
「一緒に立澤組をぶっ潰そう」
「…………」
「おい、長崎!」

 長崎は戸惑っていた。
 なぜ、俺はこんなにも動揺しているのだろう?
 警察の手伝いをするなんてとんでもない。
 立澤組を敵に回すなんて、命知らずにも程がある。
 だけど――
 俺の心の片隅にひそむ不安感。
 ときどき、ふと思うことがあった。
 なぜ、俺は――
 長崎はこのとき初めて、自分の本当の気持ちに気がついた。
「どうして俺は、こんな生活を続けているんだろうな?」
 そんな言葉が自然と口をついて出る。
 中部の驚いた顔が目の前にあった。

 (1986年4月30日執筆)

つづく

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