KUROKEN's Short Story 01
国語の教科書に載っていた星新一の「おーい でてこーい」にいたく感動した中学生のころ。ちょうど〈ショートショートランド〉という雑誌が発刊されたことも重なって、当時の僕はショートショートばかり読みあさっていました。ついには自分でも書きたくなり、高校時代から大学時代にかけて、ノートに書き殴った物語は100編以上。しょせん子供の落書きなので、とても人様に見せられるようなシロモノではないのですが、このまま埋もれさせるのももったいなく思い、なんとかギリギリ小説として成り立っている作品を不定期で(毎日読むのはさすがにつらいと思うので)ご紹介させていただきます。
オルゴール
少年は空き地にたまったゴミの山の中から、小さなオルゴールを拾い上げた。
それは表面が金色に彩られた美しいものだった。
少年はねじを巻くと、そっとオルゴールのふたを開いてみた。
「あ……」
あまりの音色の美しさに感嘆の声をあげる。
心の奥に沁み込むような美しいメロディー。心地よいテンポ。
オルゴールはくり返し、同じ旋律を奏でた。
しかし、心地よい時間はいつまでも続かなかった。
やがてオルゴールはすさんだ音を出し、メロディーはひずみ、最後にシの音を奏でると完全に停止した。
「壊れちゃった」
少年はさみしそうにつぶやくと、灰色のオルゴールをゴミの山の中へ放りこみ、どこへともなく去っていった。
少年はまだ金色のオルゴールだった。
灰色のオルゴールは次の誰かにねじを巻かれるのを、今日も静かに待ち続ける。
(1986年3月30日執筆)