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MAD LIFE 076

6.女の勇気に拍手!(2)

1(承前)

 瞳はバランスを崩さないように、ゆっくりと立ち上がった。
 両手は背中の後ろで縛られているので、こけたりしたら大変だ。
 窓のそばに近づく。
 三日前、彼女は頭上に見える窓ガラスを割った。
 窓はそのまま修理されていないようだ。
 倉庫内は埃っぽい。
 おそらく掃除もしていないだろう。
 だとしたら、窓の下にはあのとき割ったガラスの破片が落ちているに違いない。
 それを使ってロープを切ることができれば。
 瞳はわずかな月明かりを頼りに、ガラスの破片を探した。
 しかし、それらしきものは見つからない。
 ……どうして?
 窓を見上げる。
 窓には今もまだ割れたガラスの一部がはまったままとなっている。
 ちょっとした衝撃を与えれば、すぐに割れるだろう。
 窓に向かってジャンプを試みる。
 しかし、窓は瞳の手の先より、さらに一メートルほど高い場所にあった。
簡単には届きそうにない。
 思いきり身体を伸ばしたところで、バランスを崩した。
 手の使えない瞳は腰を強打する。
「痛い……」
 彼女は顔をしかめ、不自由な手で腰を撫でた。
 どうして私がこんな目に?
 次第に、怒りが湧いてくる。
「こうなったら、なにがなんでもガラスを手に入れてやるんだから」
 瞳は右の靴を脱ぎ、それを窓に向かって蹴り上げた、
 靴は窓から大きく左にそれ、壁にぶつかる。
「もう片方!」
 今度は左の靴を蹴り上げる。
 靴は弧を描き、窓ガラスにぶつかった。
 窓が震え、ガラスがはずれる。
 ガラスは真ん中からふたつに割れ、ひとつは倉庫の外へ、残りは内側に落ち、床にぶつかると粉々に砕けた。
 靴は窓枠に跳ね返され、これも倉庫の中へと転がる。
 同時に、けたたましいベルが鳴り響いた。
「なに……この音?」
 思わず耳をふさぐ。
 彼女は知らなかった。
 窓に防犯ベルが取りつけられていたことを。

(1985年10月27日執筆)

つづく

1行日記
名古屋ブラブラ――服を買いました!

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