MAD LIFE 304
21.ワーストチャプター(1)
1
中西は朝から時間を気にしていた。
今日は午後三時に、緑地公園で瞳と待ち合わせの約束をしている。
中西は今日のデートを最後に、瞳と別れようと思っていた。
今ならわかる。
俺はたぶん、彼女に同情していただけなのだ。
薄情な男だと思われても仕方ない。
しかし、自分の心に嘘をついてこのままつき合い続ければ、たぶんおたがいが不幸になるだけだろう。
無責任な話だとは思うが、自分の力ではどうにもコントロールできないのが恋というだ。
「どうしたの? 中西さん」
真知が自分の作った味噌汁を美味しそうにすすりながら訊く。
「さっきからそわそわして……この味噌汁、口に合わなかった?」
「いや、うまいよ」
中西はそう答えると、味噌汁を慌てて口に運び、そしてむせた。
「中西さんたら子供みたい」
真知がくすりと笑う。
「照れてるんだよ、この子は」
そういったのは美和だ。
「誰も照れたりなんて――」
母の言葉を否定しようとしたが、
「お母さま、どうです? このお味噌汁の味」
「お世辞抜きで美味しいわ」
「本当ですか? 嬉しい!」
美和と真知は中西をほったらかしにして会話を楽しんでいる。
微笑ましい光景に、自然と口元が緩んだ。
「ごちそうさま」
真知の作った朝ご飯を堪能し、席を立つ。
(1986年6月12日執筆)
つづく