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逆転検事 ヤンマガ版未発表脚本15

燃え盛る逆転(15)

《登場人物》
・御剣怜侍(みつるぎ・れいじ)……検事局始まって以来の天才検事
・糸鋸圭介(いとのこぎり・けいすけ)……所轄署で殺人の初動捜査を担当している刑事、御剣とは旧知の仲
X鞍馬満天(くらま・まんてん)……体操選手、大学構内で遺体が発見される
・智槍啓太(ちやり・けいた)……競輪選手
・大地翔(だいち・かける)……陸上選手、深夜3時にボヤを見つけて消火活動
・河童沙良(かわどう・さら)……水泳選手
・目樽望(めだる・のぞむ)……学長

▼シーン13(続き)

 空になったプールへ入り、携帯電話を拾い上げる人影。

〈御剣〉[更衣室の陰から飛び出し]「そこまでだ、智槍啓太」

 驚いた形相で振り返る人影――智槍。

〈糸鋸〉「ええっ? 智槍選手が鞍馬選手を殺した犯人ッスか?」
〈御剣〉「殺害したとき、被害者の携帯電話がプールの中へ落ちてしまったのだろうな。それは彼にとって、なんとしても回収しなければならないものだった。しかし、遺体をプールに放置しておけば、いずれプールの中の携帯電話も見つかってしまうだろう。それだけは絶対に避けなくてはならない。だから、遺体を別の場所へ移動させたのだよ」
〈糸鋸〉「え? だけど、プールの中へ落ちただけなら、簡単に回収できるじゃないッスか」
〈御剣〉[呆然とたたずむ智槍に目をやり]「いや、彼にはそれができなかったのだ。1年前の事故で、水を恐れるようになってしまったのだからな」
〈智槍〉「…………」
〈御剣〉「彼にはプールに落ちた携帯電話を、即座に回収することができなかった。だから、火をつけて消防車に放水させることで、プールの水を空にしてしまおうと考えたのだよ」

 糸鋸、智槍から携帯電話を奪い取り、データを確認。

〈糸鋸〉「ああ、ダメッス。びしょ濡れで使い物にならないッス」
〈御剣〉「メモリは大丈夫だろう。鑑識に回して調べてもらえ。きっと、ドーピングに関する重大な証拠が見つかるはずだ」
〈智槍〉[震えた声で]「ぼ、僕は……」
〈御剣〉「私と刑事の話を盗み聞きして、とっさに大地翔へ罪をかぶせることを考えたのだろう。錠剤とアンプルを陸上部の部室へ運び込んだのもキミの仕業だな? もはや言い逃れはできない。プールから携帯電話を拾い上げたことで、キミが犯人であることは確実なのだからな」

 その場にがっくりとうなだれる智槍。

〈智槍〉「会食のあと、2人きりで話がしたいと鞍馬さんにいわれ、ひと気のないこの場所へとやって来たんです。学長に告発文を送ったのは自分だ、と鞍馬さんはいいました。誰がドーピングをやっているかも知っている。今なら黙っていてやるから、持っている薬を全部出せといわれて……。だけど、僕はどうしても世界大会で勝ちたかった。だから……」

                           つづく

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