下手の横スキー02
第2回 雪上に打ち上がる花火~フォーメーション(1)
スキーの魅力を皆様に伝えるべく始まったこの連載でありますが、あらら、2回目にして早くも行き詰まっちゃいました(おい)。なにを語ればスキーの魅力が伝わるのかと、根本的なところで深く悩み込んでしまった次第。
このまま一人であれこれ考えていても埒が明かないので、共に指導員検定を受けたスキー仲間に訊いてみることにしました。
「スキーの魅力ってなんだと思う?」
「ス、スキーだと? 口にしてはならぬことをよくも……うがああああっ!」
突然、雄叫びをあげて暴れ出す友人。
「スキーなんて大っ嫌いだあっ! 仕事や家庭を犠牲にして、あんなにも頑張ったのに、ふ、不合格だったんだぞお。あああああああああ。スキーの馬鹿野郎ぉぉっ!」
どうやら、尋ねる人間を間違えちゃったみたいです。
「コノウラミ……ハラサデオクベキカ」
「いきなり魔太郎モードですか?」
「俺の呪いで日本中の雪を、今から2ヵ月以内に消し去ってやるんだ。スキーができなくなって、世間は大騒ぎになるぞ。うひひひひ」
「いや、もう春だから、あんたの呪いとは関係なく、雪は消え去ると思うけど」
「スキードーム・ザウスもぶっ潰してやる」
「すでに取り壊されてます」
「それだけじゃないぞ。広瀬香美に夏の歌を歌わせてやるんだっ! どうだ、まいったか! ♪メレンゲがとけるほど恋したい~っ」
「メレンゲは溶けるっていうより、焦げるんじゃない?」
「じゃあ、メレンゲウミウシがとけるほど恋したい」
「意味がわかりません」
「原子力プラントがとけるほど恋したい」
「それは迷惑だっ!」
脳味噌の腐った彼を殴りつけ、周りが静かになったところで、あらためて考えてみました。一体、スキーの魅力ってなんだろう?
んもうっ! 勢いが強すぎて、鍋の中の麺が煮立っちゃったじゃない。
……それはスキーの魅力じゃなくて、うどんすきの火力だな。
いやいや、焦って結論を出す必要はないのかも。この連載で、あれこれスキーについて語っていくうちに、きっとその魅力もはっきりしてくるはず。そう信じて、僕が楽しいと思ったことを書き綴っていけばいいのかもしれません。
はい。そう思ったら気が楽になりました。そんなわけで(前回同様、長い前置きですみません)まずは、僕が最近夢中になっている「フォーメーションスキー」について。
養命酒は好きだけど、フォーメーションスキーとはなんぞや? とおっしゃる方に、メチャクチャ大雑把な説明を。
雪上のシンクロナイズドスイミングだといったらご理解いただけますでしょうか。といっても、ノーズクリップをして雪の中にもぐっていくわけじゃありません。それじゃあ、単なる我慢大会だって。見ているほうも、いつ凍死者が出るかと気が気じゃないだろうし。そうではなくて、たくさんの人たちでタイミングを合わせて滑り、その美しさを披露する──それがフォーメーションなるものの正体。スキーって一人で行なう孤独なスポーツだと思われがちですけど、ちゃんと団体競技だってあるんですよ。何人かで集まって演技をすると、滑っているほうも見ているほうも楽しさ倍増なんです。
なんだか難しそう、と思われるかもしれませんが、たとえばゲレンデで可愛い女の子を見つけて、その後ろを追いかけていったら、それは他人のシュプールに合わせて動く「トレーン」と呼ばれる滑り方。それだけで、もう立派なフォーメーションです。ね、簡単でしょう?
「そんなにも簡単だったら、きっとすぐに飽きちゃうよ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、フォーメーションを侮るなかれ。何事も奥は深い。他人の動きに合わせて滑るためには、スピードやリズムを絶えず調整していかなくてはいけないわけで、だからこそ上手にできたときの感激もひとしお。またフォーメーションを行なうと、イヤでも周りから注目されるので、それが快感になったりも。
「あたしはへたくそだから、そんなことしたって笑われるだけだよ」という人も、心配ご無用。上手な人にフォローしてもらうことで、びっくりするくらいうまく見えちゃったりするんですから。お蝶夫人とダブルスを組んで、あれよあれよと勝ち進んでいった岡ひろみみたいなものでしょうか。え? たとえがわかりにくい? おーっほっほっほっ、よろしくってよ、ひろみ。ほーっほっほっほっ、喪黒福造じゃなくってよ。
さらに、上手な人に合わせて滑っているうちに、いつの間にか本当に上達しちゃったっていうのも、よく聞く話。みんなとわいわいやり合って、楽しみながら上達できる──フォーメーションは「スキーがうまくなりたい!」と思っている人にとって、もっとも手っ取り早く、且つ効果的な練習方法なのかもしれません。
フォーメーションについて、もう少し解説を。
可愛い女の子(かっこいい男でも可)のあとを追いかける滑り方が「トレーン」だと説明しましたが、ただあとを追いかけていくだけじゃ物足りない。その子の真似もしてみたくなっちゃった。ってことで、前方のスキーヤーと同調してターンをしたなら、それは「シンクロ」という技術。
お尻ばかり追いかけていては、可愛い顔がなかなか確認できない。じゃあ、前を滑る子が右方向へ曲がったときには、自分は左ターン、左方向へ曲がったときには右ターン。おたがいが顔を合わせるように動いてみよう。ってな感じで、前方のスキーヤーとターンの向きを反対にして滑れば、それが「クロス」となります。
トレーン、シンクロ、クロス。これらを組み合わせたものがフォーメーションですが、ハイレベルになってくると、スタート時は縦一列で滑っていたのに、途中でいっせいに横に広がってダイヤモンド型ができあがったり、ひとつだった集団がふたつに分かれたり、かと思ったらまたひとつに戻ったり、いつの間にかスキーヤーの順序が入れ替わっていたり、男が女に変わったり帽子から鳩が飛び出したり(それはない)。その様は、白いキャンバスに描かれた動く絵画。あるいは真っ白な空に打ち上げられた花火のよう。老若男女を問わない見知らぬ人たちを、「うわあ、すごい」って感動させられるんですから、これって相当に気持ちいいことだと思いませんか?
シンクロナイズドスイミングやフィギュアスケート、ダンスなど、複数の人間でシンクロする美しさを楽しむスポーツはほかにいくつもありますが、いざ自分でやってみようと思っても、専門の指導者が必要だったり、また運よく指導を受けられたところで、そうそう簡単に人を喜ばせる技術が身につくはずもありません。でも、スキーならそれが可能なんです。友達数人で同じスキーウェアを買って、ただトレーンするだけでも、結構人目を惹くこと間違いなし。僕が保証します。僕に保証されても仕方ないけど。
さて僕の住んでいる地域では、毎年三月になりますと、それぞれのスキークラブが集結して死闘を繰り広げる「クラブ対抗戦」なるものが開催されます。フォーメーションの技を競い合う一戦もこのときに行なわれ、当然のことながら僕も参加したんですが……。
白熱した戦いの詳細と勝負の結果につきましては、また次回ということで。