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MAD LIFE 263
18.〈フェザータッチオペレーション〉の正体(7)
1(承前)
「だけど、それはべつに難しいことじゃなかった。こちらには西龍組の組長がいる。裏の世界にデマを流すのは簡単だ。〈フェザータッチオペレーション〉の噂は瞬く間に広まった」
「あの……」
それまで黙って話を聞いていた晃が遠慮がちに口を挟んだ。
「親父はどうして殺されたんです?」
「親父?」
中部は怪訝そうに晃の顔を見た。
「彼は長崎の息子だ」
洋樹が説明すると、
「そうか……君が……」
中部は晃の顔をじっと見つめながら、彼の肩にそっと手を置いた。
「すまない。君のお父さんには申し訳ないことをしたと思っている。……お父さんは殉職したんだ」
「殉職?」
「お父さんは少しばかり焦りすぎた。麻薬密売の証拠を得るため、単独で立澤組に乗り込んでいき、返り討ちにあってしまったんだろう」
「晃君のお父さんは……私のお兄さんに?」
唇を震わせながら瞳が尋ねる。
中部はその問いに、すぐには答えようとしなかった。
「……おそらく」
長い沈黙のあと、再び喋り始める。
「八月三十一日の夜、こんなことがあったんだと思う」
長崎の部下である黒川は、間瀬浩次から呼び出しを受けた。
「ひさしぶりだな、黒川」
浩次の顔を見て、黒川は驚く。
「あ、あんたが立澤組にいるって……どういうことだ?」
つい最近まで金を巻き上げられていた男が、立澤組のトップに君臨していたのだ。
肝を潰さぬはずがない。
「驚いたか?」
浩次はにやりと笑った。
(1986年5月2日執筆)
つづく
この日の1行日記はナシ