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MAD LIFE 018

2.不幸のタネをまいたのは?(4)

2(承前)

 数時間が経過した。
 といっても、中西は腕時計を持っていない。
 外の様子がまるでわからない密室の中では、今が何時なのかさっぱりわからなかった。
 おそらく数時間が経ったのだろう、と感じただけだ。
 室内にふたりの男が入ってくる。
 ひとりは小池。
 もうひとりは中西が初めて見る人物だった。
 背が高く、黒のスーツを颯爽と着こなしているが、白のハンチング帽はこの男にまるで似合っていない。
「こいつか」
 ハンチング帽の男は中西を顎で示し、そう口にした。
「はい」
 小池が緊張した面持ちで答える。
 どうやら、この男が親玉らしい。
 中西はハンチング帽の男を見据えた。
 年齢は五十歳くらいだろうか。
 男の目は飢えた獣のようにぎらぎらと輝いていた。
「俺も年を取ったな。まさか間違い電話をしちまうとは」
 ハンチング帽の男が苦虫を噛み潰したような顔でいう。
「こいつ、どうします?」
 小池が尋ねる。
「うむ」
 ハンチングは腕組をしたまま、中西に近づいた。
 今だ!
 全身に力をこめる。
 あらかじめ釘を使って切れ目をつけておいたロープが一気にちぎれた。
 そのまま、彼の腹を勢いよく蹴り上げる。
 きゅうっと奇妙な声を漏らし、ハンチングは前のめりに倒れた。
 中西は入口の扉に向かって突進する。
 小池が上着に右手を差し込む姿が視界の隅に見えた。
 ……まさか。
 イヤな予感が的中する。
 小池が懐から取り出したものは黒光りする拳銃だった。
「止まれ! 撃つぞ!」
 小池は銃口を中西に向けた。
 ……拳銃? こいつら一体、何者なんだ?

(1985年8月30日執筆)

つづく

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