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KUROKEN's Short Story 22

国語の教科書に載っていた星新一の「おーい でてこーい」にいたく感動した中学生のころ。ちょうど〈ショートショートランド〉という雑誌が発刊されたことも重なって、当時の僕はショートショートばかり読みあさっていました。ついには自分でも書きたくなり、高校時代から大学時代にかけて、ノートに書き殴った物語は100編以上。しょせん子供の落書きなので、とても人様に見せられるようなシロモノではないのですが、このまま埋もれさせるのももったいなく思い、なんとかギリギリ小説として成り立っている作品を不定期で(毎日読むのはさすがにつらいと思うので)ご紹介させていただきます。
※中学生のときに書いた作品をいくつか発見しましたので、本日はそちらをご紹介。そのままではまともに読めないシロモノなので、文章にちょっとだけ手を加えております。

街角の会話

「あ、辻野君」
「いやあ。誰かと思ったら長谷川君じゃないか」
「ひさしぶりだね」
「何年ぶりかな」
「高校を卒業して以来だから十年ぶりか」
「もうそんなになるのか。月日の経つのは早いものだな」
「本当に」
「……高校か。あの頃は楽しかったな」
「卒業式のこと、覚えてるか?」
「ああ、もちろん。感極まった校長先生があいさつの途中で声をあげて泣いて、みんなももらい泣きしてたよな。今でも目に浮かぶよ」
「だったら当然、あのことも覚えてるだろう?」
「あのこと?」
「俺がおまえに卒業リンチを受けたことだよ」
「あは。そんなこともあったかな」
「忘れたとはいわせないぞ」
「そんなに怒るなよ。子供の頃のちょっとしたおふざけだろ?」
「俺はあのとき、おまえに突き飛ばされて後頭部を強打した」
「そうだったのか? それはすまなかったな」
「そして、俺はそのときの怪我が原因で死んだんだ」
「……え」
「俺はおまえに復讐するために、あの世から戻ってきた。覚悟しろ。おまえを呪い殺してやる」
「ちょ、ちょっと待て」
「いまさら命乞いか?」
「そうじゃない。俺の話も聞いてくれ」
「なんだ?」
「おまえ。十三年前に家族旅行で東京に出かけたことを覚えているか?」
「ああ、高校合格の記念に連れていってもらったんだ。……なんで、おまえがそんなことを知ってるんだよ?」
「ドライブインで昼飯を食べたとき、隣の席に座っていた男の子の財布を盗んだだろう?」
「……あ、ああ。でも、どうして?」
「あのとき、財布を盗まれたのは俺だったんだよ」
「え」
「驚いたか?」
「勘違いをするな。俺は金がほしくて財布を盗んだんじゃない。あの財布は俺の好きな漫画のキャラクター商品だったから、つい……」
「財布を盗んだことはもういい。許してやるよ」
「…………」
「財布が盗まれたことに気づいた俺は、慌てておまえを追いかけた。その途中で、ドライブインに入ってきたトラックにはねられて死んだんだ」
「……嘘だろ?」
「嘘じゃない。俺はおまえを恨み、幽霊になったあとも人間のふりをして生活を続けてきた。そして卒業式の日に、ようやく復讐に成功したんだ」
「あの日、俺を殴ったおまえは、すでに死んでいたってことか?」
「ああ。俺はおまえに殺されたようなもの。だから、俺を恨むのはお門違いだ」
「それはどうかな? 十六年前のことを思い出してみろ。小学六年生の夏、おまえは見知らぬ少年を川の中に突き落としただろう? あの少年は俺だ。俺はあのときおぼれ死んだ。おまえに復讐をするため、人間のふりをしておまえの通う中学校へ入学し……」
「いや、待て。二十二年前のことを思い出せ。俺たちは同じ幼稚園に通っていた。おまえは俺がヒロコちゃんと仲良しだったことに嫉妬して、卒園式の日に俺をボコボコに殴ってきたんだ。あのとき、俺は死んだ。許せるわけがない。だから、おまえに復讐を誓った。すべての元凶はおまえだ」
「落ち着け。俺は悪くない」
「いまさら、言い訳か? 男らしくないぞ、辻野」
「いや、辻野はおまえだ。俺は長谷川。つまり、悪いのはおまえだ」
「そうか。すべての元凶は俺だったのか」
「わかってくれて嬉しいよ。じゃあ、僕はちょっと急ぐから、そろそろ失礼するね」
「ああ、お元気で」
「君こそ身体に気をつけて。もうおたがいに若くないからね」
「さようなら」
「さようなら」

(1984年3月執筆)

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