逆転検事 ヤンマガ版未発表脚本22
時の館の逆転(6)
《登場人物》
・御剣怜侍(みつるぎ・れいじ)……検事局始まって以来の天才検事
・糸鋸圭介(いとのこぎり・けいすけ)……所轄署で殺人の初動捜査を担当している刑事、御剣とは旧知の仲
・時田針之輔(ときた・しんのすけ)……高級時計メーカー《トキタ》の創始者であり、現会長、脚が悪く車椅子の生活を余儀なくされている、コレクションルームはアンティークな柱時計や置時計であふれかえっている、規律に厳しくとくに時間にはうるさい、息子の時田龍頭を殺害、77歳
X時田龍頭(ときた・りゅうず)……針之輔の長男、《トキタ》社長、経営不振の打開策として会社を売却しようと考えている、何事にもルーズな性格、被害者
・幸丸事郎(ゆきまる・じろう)……針之輔の身の回りの世話をしている執事
▼シーン6(続き)
部屋のもっとも目立つ位置に飾られた柱時計に目を奪われる御剣。
〈御剣〉「どれも素晴らしいが、その中でもこれは群を抜いて美しい」
〈針之輔〉「キミはなかなか見る目がありそうだな。それはワシの一番の宝物――いや、ワシの命そのものといってもいい。300年前から休むことなく時を刻み続けている――大変貴重な、奇跡の柱時計なのだ」
愛おしそうに柱時計に触れる針之輔。
〈針之輔〉「この時計はちょうど1週間でゼンマイが伸びきってしまう。壊すわけにはいかないから、たとえばワシが病気になって、1週間以上入院する事態など絶対にあってはならない。だから、健康には人一倍健康気をつかっておるのだよ。徹底的に時間を守り、規則正しい生活を送っているのもそのためだ」[ふと寂しい表情を浮かべ]「龍頭……あいつにはそのへんのことがまったくわかっていなかったのだろうな」[御剣に向かって微笑み]「バカな息子だったが、手厚く弔ってやろうと思っている」
〈御剣〉「そのご子息のことだが――」
〈針之輔〉「ああ、すまない。ワシのコレクションの自慢などしている場合ではなかったな。なんでも訊いてくれ」
〈御剣〉「昨晩、あなたのご子息はこの家へ顔を出す予定だったのだろうか?」
〈針之輔〉「ああ。ゆうべはワシの喜寿を祝うパーティーがあってな、もちろんあいつも招待したのだが、約束の時間になっても現れないから、ずっと心配しておったのだ。午後11時前に一度電話をかけてみたが、繋がったと思った途端、切れてしまってな。あいつのことだから、約束の時間に遅れたことをこっぴどく叱られると思ったのかもしれない。しかし、まさか殺されるなんて……どうしてこんなことに……」
つづく
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