見出し画像

MAD LIFE 326

22.歯車は壊れた(7)

4(承前)

「……真知」
 ぶたれた頬を押さえながら、彼女の顔をじっと見る。
「俺を信じてくれないのか?」
 真知は中西を睨みつけたまま、なにも答えない。
「俺を信じてくれないのか?」
 中西は同じ質問を繰り返した。
「あたしだって……あたしだって……」
 真知の唇が小さく動く。
「あたしだってあなたを信じたいわよ!」
 彼女はそう叫ぶと、中西の手を振り払って店の外へ飛び出していった。

 とめどなくあふれる涙を拭いながら、真知は自宅への道のりを歩いていた。
 あたしは馬鹿だ。
 先ほどからずっと自分を罵り続けている。
 どうして中西さんを信じることができないの?
 本当は仲直りしたかったんでしょう?
 もっと素直にならなくちゃ。
「小崎真知?」
 野太い声に顔を上げる。
 彼女の目の前には、真っ黒なサングラスとスーツ……そして頬に深い傷跡のある、明らかに堅気ではない男が立っていた。
「あんた、小崎真知さんだね?」
 あごひげを撫でながら男がいう。
「いいえ。人違いです」
 真知は即座に否定した。
「おや?」
 男は真知の顔を覗き込み、口笛を吹いた。
「おまえ、意外と美人だな」
 そういって、いやらしい笑みを浮かべる。

 (1986年7月4日執筆)

つづく

1行日記
4日前につった足、やっと痛みがなくなりました。


いいなと思ったら応援しよう!