
フォスター・チルドレン 38
第4章 最後まで理解し合えなかったね(2)
1(承前)
「彼らとは知り合いだったの?」
「……いいえ。うちも軽率やったんです。彼氏にふられてやけになっていたとき、あいつらが近づいてきたもんやから……うち、ふらふらっとついていってしもうて、つい一緒になって遊んでしまったんです。それっきりのつもりでした。でもあいつら、しつこくって……」
彼女はため息をついた。
「葉月さんがいなかったら、うち、どうなってたかわかりません」
「葉月って?」
「あ、一緒にスタンドで働いている身体の大きい人ですよ。あいつらを追っ払ってくれた――」
葉月……葉月マサル。それが彼の名前らしい。
「びっくりしたよ。すごかったね、彼」
「かっこいいでしょう?」
急にショーコの目が輝き始めたので、僕は驚いた。
「うちの高校のときの先輩なんです」
「高校の……先輩?」
「ええ。うちも葉月さんも大阪に住んでたんです。高校は大阪市立O**高校。うち、こんな華奢な身体してるけど、これでも高校時代は女子柔道部やったんですよ。で、葉月さんは男子柔道部。うちより二つ先輩で、いろいろと面倒みてもらいました」
僕は身を乗り出した。彼女からなら、葉月マサルのことをなにか聞き出せるかもしれない。
「あのさ、葉月さんって結婚しているのかな?」
「まさか。独身ですよ。あの人、女性に関してはものすごい奥手やから」
「つき合っている人とかいないの?」
「あ、今はいてはるみたい。着てるもんもこざっぱりしてるし、作業着もいつも綺麗に洗濯してあるから」
そう答えてから、彼女は怪訝そうな表情を浮かべた。
「なんでそんなこと、訊かはるんです?」
「あのさ、今日、これから時間あるかな?」
「ええ? どうしてですか?」
「実は僕、葉月さんとつき合っている女性の兄なんだ。僕たちの両親は早くに死んでしまって、今では僕が妹の親代わりみたいなものなんだよ。だからさ……妹のことが心配で……」
とんでもない嘘が口からさらりと飛び出す。ショーコは疑わしそうな視線を僕に投げかけた。
「妹さんの名前、なんていうんです?」
「朋美……長瀬朋美」
そう答えると、ショーコの顔がぱっと明るくなった。
「じゃあ間違いないわ。仕事場に、よく長瀬さんって人から電話がかかってくるもん。電話口で葉月さん、『朋美』って呼びかけてるし……」
二人がつき合っていることは、どうやら間違いないようだ。
花火を準備する爆音が轟く。
僕らは同時に首をすくめ、そしてお互いのしぐさに笑い合った。
つづく