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ノセトラダムスの大予言05
2(承前)
「先生、すごい! すごいよ!」
一番あとにやって来た能勢を振り返り、皆は割れんばかりの拍手を贈った。この事件をきっかけに、能勢の超能力の噂はほかのクラスにまで広まっていった。
それ以後も、能勢は様々な予言を行った。すべてが見事に的中するわけではなく、はずれることも多かった。当たったときには、皆先生に抱きついて彼を賞賛した。
晶彦も、最初の頃は確かに能勢を尊敬していた。彼のことを本物の超能力者だと信じて疑わなかった時期もあった。
だがユリが必要以上に能勢に接近し始め、いつも彼のことばかりを話すようになると、次第にその担任教師のことを疎ましく思うようになった。今思えば単なる嫉妬だったのだろうが、無論その頃の晶彦はそんな言葉など知るはずもなく、理由のわからない苛立ちに始終悩まされ続けなければならなかった。
能勢の超能力が実はいんちきなのではないかと疑い始めたのは、教室で飼っていたペットの小鳥が逃げ出し、能勢がその居場所をぴたりと当ててしまったときだ。
ピーコ――クラスメイトの名はすっかり忘れてしまっているというのに、飼っていた鳥の名前だけははっきりと覚えているのだから不思議だ――が突然姿を消したのは、晶彦のクラス児童全員が家庭科の授業を受けるため、教室を離れていたときだった。
強風にあおられたのか、あるいはのら猫がいたずらをしたのか、皆が授業を終えて戻ってくると、窓のそばに吊るされていたはずの鳥かごが床に転がり、ピーコの姿は消えてしまっていた。
「川のそば……近くに小さな公園が見える。ピーコはそのそばを気持ちよさそうに飛んでいるよ」
可愛がっていた小鳥が消息を絶ったことで落胆していた子供たちに能勢はそう告げると、翌朝には鳥かごにピーコを入れて登校してきた。水色にピンクのスジが何本も入った綺麗な羽根。右足を軽くひきずる動き。首をかしげるしぐさ。それは間違いなくピーコだった。
「また先生の予言が当たった!」
クラスメートはいつものように、能勢へ賞賛の拍手を贈った。能勢は照れた笑いを浮かべながら、ピーコにキスをした。一段と拍手は大きくなった。
だが、晶彦だけは手を叩こうとしなかった。彼は能勢のいかさまに気がついてしまったのだ。
晶彦は見た。家庭科室へ移動する途中、うっかりエプロンを教室に置いてきててしまったことに気づき、慌てて教室へ戻ったそのとき。能勢が鳥かごからピーコを取り出し、小さな別のかごにしまいこむ姿を。
そのときはなぜ、そんなことをしているのかわからなかった。だが小鳥がいなくなったと皆が騒ぎ出し、能勢がそれについてなにも弁解しなかったことから、ようやく彼の企みに思い当たった。
能勢は自分でピーコを隠し、それからでたらめの予言を行って、さも自分がピーコを見つけたように芝居をうったに違いない――晶彦はそう推理した。
でも、なぜ?
決まっている。子供たちから得た人気を維持するためだ。
今でも晶彦は、自分の推理が間違っていたとはまったく思っていない。中学、高校ともなれば多少事情は変わってくるのだろうが、小学校の教師として成功するか否かは、子供たちに慕われるかどうかが重要な決め手となる。どんなに授業の進め方が上手な教師であっても、教え子に好かれなければ絶対にうまくやっていくことはできない。子供たちに慕われていれば、親の間での評判もよくなる。結果、優秀な教師として認められることになる。だから、彼は当時はやっていた超能力を利用することで、人気を稼ごうと考えたのだろう。
確かに能勢は人気者だった。晶彦が真実を暴露するまでは。
つづく