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アパレルショップ綺羅の事件簿 24
8 〈綺羅〉店内(承前)
早紀 「ふざけないでください。晶様は向かいの公園で、ずっとライブをしていたんですよ。マネキンに悪戯をする時間なんてこれっぽっちもなかったはずです」
うらら 「落ち着いて、私の話を聞いてください。(青マネキンの肩を叩き)まず、犯人がどのような方法で彼女を殺害したか、それを説明しましょう。(みんなの顔を見回し、咳ばらいをひとつして)まず、マネキンのからだに記された落書きですが、これは私たちがプリンス晶のライブを見ている最中ではなく、もっと前から書かれていたのではないでしょうか。服を着せれば、落書きはいっさい見えませんから」
遥 「なるほど。いわれてみればそのとおり。さすが名探偵さん! すごいすごい」
楓 「じゃあ、服を脱がしたり、横倒しにしたりってのはどうやって?」
うらら、床から拾った糸くずを観客席に向ける。
うらら 「犯人が使ったトリックはこれです」
楓 「なにそれ?」
うらら 「糸です。犯人は今朝、この店にこっそり侵入しました。ドアは早紀さんが壊したあとだったので、忍びこむのは簡単だったと思います。(青マネキンにさわり)マネキンのからだに落書きをしたあと、服を着せ、それからマネキンの衣装に糸を結んだのでしょう」
ほのか 「服に糸を結んだ? なんのために?」
うらら 「おわかりになりませんか。犯人は糸の先をドアの隙間から外に出し、公園まで引っ張りました。そうしておけば、公園でライブをしている最中であっても、糸を引っ張ってマネキンを倒すことはできます。さらに強く引っ張れば、服も脱げてしまうはずです」
楓 「朝早くからマネキンに糸が結んであったなら、さすがに誰かが気づいたんじゃない?」
うらら 「この店は小汚く、床にはうっすらと埃がかぶっています。床に糸が垂れていても、誰も気にしなかったのではないでしょうか?」
ほのか 「まあ確かに、そうかもしれないよね」
仁恵 「こら、そこ。納得しない。そもそも、あんたが掃除をサボるからいけないんでしょうが」
麻美 「ちょっと無理無理な気はするけど、トリックにはとりあえず納得するとして、それでどうして犯人はプリンス晶ってことになっちゃうんだ?」
うらら 「だって、この犯罪を実行するためには、店内にいる人たちをいったん外に追い出さなくてはならなかったんですよ。それができたのはプリンス晶だけです。彼が向かい側にある公園で路上ライブをやっているとわかったから、私たちはこの店を離れたわけですし」
遥 「そうかあ。プリンス晶が犯人だったのかあ。……え? ということは、彼、この店に入ってきたってことだよね? (鼻を動かし)もしかしてプリンス晶の残り香がまだあるかも」
つづく