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MAD LIFE 141
10.思いがけない訪問者(4)
2(承前)
「どうしたの? 晃」
「俺、ずっと訊いちゃいけないような気がしてた……でも……」
晃は言葉を濁した。
「なによ、気持ち悪い。はっきりいいなさい」
「うん……じゃあいうよ」
息を吸いこみ、思っていたことを口に出す。
「姉さん……この二年間、一体なにをしていたの?」
「…………」
江利子が答えるまでには多少の間があった。
「……いろんなことよ」
ようやく笑って答える。
「いろんなことって? たとえば?」
「どうだっていいじゃない、そんなこと」
晃から目をそらし、彼女は再び髪を梳き始めた。
話したくないのは明らかだ。
晃はそれ以上、追求することができなかった。
そう……どうだっていいじゃないか。
窓の外に目をやり、自分にそういいきかせる。
二年ぶりに再会した姉さんは、なにも変わっていなかったんだからさ。
晃はちらりと姉の横顔を見た。
でも……この不安感はなんだろう?
晃は家を出たあと、一週間ほど名古屋にいた。
彼の心の中には、瞳から放たれた別れの言葉がずっと突き刺さったままだった。
――ごめんなさい。あなたにはなんの罪もないけれど……私、以前のようにはあなたとつき合えないと思う。
晃は知り合いのつてで仕事を紹介してもらい、瞳の言葉を忘れるために一週間ひたすら働き、ある程度金がたまったところで、大阪へ移動した。
なぜ大阪に行こうと思ったのか、その理由はわからない。
ただ、大阪へ行けばなにかが変わるかもしれない――そんな信念があった。
大阪への道中、晃は偶然姉と出会った。
二年ぶりの再会だった。
(1985年12月31日執筆)
つづく
1行日記
わお! 大みそかだじぇーい。さあ、紅白はどちらが勝つか!?