MAD LIFE 327
22.歯車は壊れた(8)
4(承前)
逃げなきゃ!
とっさに、ハンドバッグで男の顔を叩く。
「いてっ」
男は鼻を押さえてうずくまった。
隙をついて逃げようとしたが、しかし右腕をつかまれる。
男の力は異常に強かった。
「いた……痛い……」
脂汗が額ににじむ。
「逃がすものか」
男は舌なめずりをすると、真知をひきずり、路肩に停めてあった車の中へと連れ込んだ。
「いや、放して!」
激しく抵抗したが、男の力にかなうはずもない。
真知を乗せた車は、猛スピードでその場を離れた。
5
「父さん、どうしてなにも教えてくれないの?」
俊が大声を出す。
「なに? 一体、どうしたの?」
由利子が台所から顔を出す。
「俊が屋根裏部屋へ入ったんだ」
洋樹は由利子にそう伝えた。
「母さんも知っているんだろう? 友恵ってのは誰?」
「……友恵」
由利子はその名前を聞いた途端、持っていた皿を床に落とした。
派手な音を立てて、皿は粉々に砕け散る。
(1986年7月5日執筆)
つづく