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MAD LIFE 172
12.危険な侵入(5)
2(承前)
瞳は目を覚ました。
布団は汗でぐっしょりと濡れている。
「また、この夢……」
彼女は額の汗を拭って、そう呟いた。
記憶の片隅に残っている十四年前の記憶が、最近は夢になってはっきりと現れる。
枕元に転がっていた目覚まし時計を拾い上げてため息をついた。
まもなく正午になろうとしている。
「始業式、サボっちゃった」
瞳はひとりごとを口にしながら、何気なくテレビのスイッチを入れた。
起きたらまずテレビをつける――これが彼女の習慣だった。
『次のニュースです』
いつもと同じアナウンサーがいつもと同じ感情のこもらぬ表情でしゃべり続けている。
切り替わった画面を見て、瞳は息を呑み込んだ。
全身が一気に冷たくなっていく。
恐怖。
蛇、蛇、蛇、蛇、蛇。
瞳は悲鳴をあげて、その場にうずくまった。
震えが止まらない。
「八月二十四日に身元のわからない女性に銃で撃たれた立澤組組長、立澤栄が今朝未明、春日町立病院で死亡しました」
テレビ画面には元気な頃の立澤が映っていた。
上半身裸になり、木刀を振っている。
彼の腕には龍の刺青が彫られていた。
それは瞳が幼い頃に見た、彼女を襲った男の腕に描かれた蛇の姿とぴったり一致した。
(1986年1月31日執筆)
つづく
この日の1行日記はナシ