KUROKEN's Short Story 06
国語の教科書に載っていた星新一の「おーい でてこーい」にいたく感動した中学生のころ。ちょうど〈ショートショートランド〉という雑誌が発刊されたことも重なって、当時の僕はショートショートばかり読みあさっていました。ついには自分でも書きたくなり、高校時代から大学時代にかけて、ノートに書き殴った物語は100編以上。しょせん子供の落書きなので、とても人様に見せられるようなシロモノではないのですが、このまま埋もれさせるのももったいなく思い、なんとかギリギリ小説として成り立っている作品を不定期で(毎日読むのはさすがにつらいと思うので)ご紹介させていただきます。
呪い?
「君、まだ働いているのかい? もう夜中の二時だよ」
「ああ、警備員さん。こんばんは」
「顔色がよくないね。働きすぎだ。早く帰ったほうがいい」
「心配はいりません。顔色がよくないのは、今日、社長にこっぴどく叱られたせいですから」
「それは大変だったね」
「本当は自分のミスなのに、全部こちらに押しつけてきやがって……あのバカ社長……殺してやりたい」
「おいおい、穏やかじゃないな。これからの人生を棒に振るつもりかい?」
「いえ、刑務所に入るのは勘弁です」
「だろ? だったら、殺してやりたいとか物騒なことは考えずに――」
「だから、呪い殺してやるんです。それなら警察に捕まることもないでしょう?」
「……呪い殺す?」
「ええ。知り合いの呪術師から、藁人形と五寸釘を手に入れました。藁人形の中には、すでに社長の髪の毛が入っています。これを壁に打ちつければ……」
「お、おい。ここでやるのかい? 落ち着けって。会社の壁に藁人形を打ち付けたりしたら大騒ぎに……おいこら、やめたほうがいいってば。あーあ……本当にやっちまった。となりは社長室だぞ。君、明日の朝、社長さんに大目玉をくらうことになるんじゃ……」
「心配いりません。どうせ社長は死んでしまうのですから」
「バカバカしい。君、呪いなんて本気で信じているのかい?」
〇〇不動産社長、事故死。
15日午前8時頃、〇〇不動産社長 吉本権蔵(69)さんが脳に激しい損傷を受けて死亡した。事故を目撃した秘書の話によると、吉本さんは社長室内で足をすべらせた際、壁に頭をぶつけ、そのまま意識を失ったらしい。壁からは釘が飛び出しており、警察はその釘が前頭部に突き刺さって死んだのではないかと見て捜査を進めている。
(1987年10月18日執筆)