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下手の横スキー03

第3回 壮絶なる闘い~フォーメーション(2)

 皆さん、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。僕はといえば、すっかり暖かくなったせいで、居眠りこきまくりの毎日が続いております。ぐがあ。春眠、暁を覚えず。俊敏、赤塚不二夫。うーーん、それはちょっとイメージと違うかも。なんのこっちゃ。黒田研二です。

 そんなこんなで、連載もめでたく3回目を迎えることとなりましたが、このエッセイの評判って果たしてどんなもんなんでしょう? いや、そもそも読んでくれてる人っているんでしょうか? ちょっと気になったもんですから、「下手の横スキー」をGoogleで検索してみることにしました。

 お、思ったよりもたくさんのページがヒットするぞ。嬉しいなあ。こんなにもたくさんの人が読んでくれているんだ。なになに? 「私は下手の横スキー」「趣味・下手の横スキー」。……このエッセイとはまったく関係ない話ばっかりぢゃん。
 どうやら「下手の横スキー」って、「電話には誰もでんわ」レベルの、誰でも思いつくダジャレだったみたいですな。反省。そんなわけで次回からは、タイトルを「スキーこそものの上手なれ」に変更してお届けしたいと思います。どうぞお楽しみに。嘘だけど。

 さて、県内のスキークラブが集結し、フォーメーションの技を競う大会がついにやってまいりました。演技構成は自由。決められたコース内を1チーム4人で滑り降り、その美しさを審判が採点します。

 昨年は、自信満々でこの闘いに挑みました。というのも、ミスター・デモンストレーターの異名を持つ日本のトップスキーヤー・渡辺一樹さんに、「このとおりに滑れば、絶対優勝間違いなし」という演技構成を教えていただいたからなんです。ほかのチームがどんな凝った構成を考えようと、こちらはプロのスキーヤーが考案した完璧プログラム。負けるわけがありません。
「よっしゃあ。これで優勝はもらったあ!」と気合いを入れて滑り出したまではよかったんですが、スタート直後に先頭の一人が転倒。それに動揺した残り三人の演技もバラバラになって、最悪の結果に終わってしまいました。いくら構成が完璧でも、演技者の技術が伴っていなければなんにもならないことを示す良い例ですね(涙)。

 昨年の雪辱を果たすべく、今年は渡辺デモに教えていただいた構成をアレンジし直し、再チャレンジすることとなりました。あとは一に練習、二に練習、とにかく練習あるのみです。

 実際にやってみるとわかりますが、面白いもので、フォーメーションってヤツは、その人の性格が如実にあらわれます。普段から自己主張の激しい人は、こういうときでもやはり我が強く、一人だけとんでもない方向に滑っていったり。せっかちな人は勝手に先へ進んでいってしまうし、のんびり屋は逆に周りから遅れていくし……。4人の息をぴったり合わせるのは、とても大変なことです。だからこそ、ますますフォーメーションの楽しさに引きずり込まれていくのかもしれません。

「なんだか面白そう」
 競技開始前の最終打ち合わせをしていたところへ、同じクラブの三林ケメ子(仮名)がしゃべりかけてきました。
「えーい、練習の邪魔だ。そこをどきやがれ」
「あ、のけ者にするんだ。ふうん。まあ、いいけどね」
 不敵な笑みを浮かべ、僕たちの前から去っていくケメ子。なにやら不吉な予感が漂います。

 さてさて。そうこうしているうちにいよいよ本番。
「Rスキークラブ、スタートです」 
 スタート員の合図で演技開始。緊張しまくりだったので、滑っている最中のことは、あまりよく覚えていません。しかし練習の甲斐あってか、大きなミスもなく無事ゴールまでたどり着くことができました。審判の点数もそこそこで、まあ、優勝は無理にしても入賞は確実だと思ったんですが……。
「続きまして、RスキークラブBチーム、スタートです」
 なにいいいいいいっ?
 三林ケメ子率いる我がクラブの女性陣4人が、颯爽と滑ってくるではありませんか。
 ふふん。俺たちにのけ者にされたもんだから、寄せ集めのチームで対抗するつもりか? 甘い、甘い。ちょっと練習したくらいで勝てるはずがないだろう。こちらはプロスキーヤーの考えた構成をもとに、緻密な計画を練って、今日まで練習を続けてきたんだぞ。負けるわけが……。
 ……うまい。
 小回りと大回りを巧みに組み合わせ、4人の息もぴったり。おまけにスピード感もあるような……。
 ふうん。なかなかやるじゃないか。
「全員、女性だと、やっぱり華やかに見えるね」と、どこからか感心するような声も。
 や、やばい。もしかして。
 審判の掲げた点数を見て愕然。
 ……ま、負けた。
「ほーっほっほっほっ。残念だったわね、あなたたち」
 スキー場に響き渡る、ケメ子の高らかな笑い声。
 同じクラブから2チーム以上が出場した場合、もっとも高い点数を出したチームだけが入賞の対象となり、ほかはすべて切り捨てとなってしまいます。ってなわけで、僕たちは今年も入賞ならず。ちなみにレディースチームは5位入賞を果たしました。
「ち、畜生! 汚ねえぞ! 一体、どんな手をつかいやがった!」
「落ち着け、落ち着くんだ」
「実力よ、実力。ほーっほっほっほっ。これからはあたしのことをケメ子様とお呼び」
「色気だ! きっと色じかけで迫ったんだ! ゴール寸前、審判に向けてウィンクとか投げキッスとか贈ったんじゃないのか?」
「たとえそうだとしても、だからなに? それも実力のうちよ。悔しかったら、あなたたちも色気を使ったらどう? まあ、あなたたちみたいな不細工な集団では無理でしょうけどね」
「うおおおおっ! 雪に埋めてドーバー海峡に沈めてやるううっ!」
「頼むから落ち着いてくれ。みんなが見てるぞ」
「雪玉を胸につめて、俺も巨乳になってやるんだあああっ!」
 興奮してわけがわかりません。

 その日の夜は、ビデオに収めた自分たちの演技を見返しながらの反省会。確かに、無難には滑ってるんですが、「をを!」と感動するような箇所がまったくなかったのも事実。今回の敗因は、失敗を恐れて構成を簡単にしてしまったことにあったみたいです。
「よーし、来年こそは絶対に入賞するぞ!」と、固く誓い合う四人。
「レディースチームに勝つためには、彼女たち以上の色気を身につけなくては」
「じゃあ、全員網タイツでも穿くか?」
「股間に白鳥の首を取りつけて、バレリーナみたいに滑り降りてくるってのはどうだ?」
「白鳥? おいおい、ふざけてる場合じゃないだろう。みんなに謝れ」
「スワン」
「よーし。仲直りしたところで、早速練習だ! あんどーとろわ、あんどーとろわ」
「おいおい、結局バレリーナかよ」
「つべこべいうな! あんどーとろわ、あんどーとろわ」
「あんどーとろわ、あんどーとろわ」
「それでは色気が足りない! もっと腰をくねくねくねえっといやらしく動かすんだあっ!」
 ……研二、負けない。きっと、立派なバレリーナになってみせるわ。いや、そうじゃなくて、来年こそ入賞してみせるわ。

 そんなわけで、僕の試練はこのあともまだまだ続くのでありました。あんどーとろわ、あんどーとろわ。

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