MAD LIFE 358
24.それぞれの行動(9)
4(承前)
「由利子はここにおまえへのメッセージを残していたんだよ」
ペンダントの中には小さな水色の紙片が入っていた。
それをつまみあげて、瞳に手渡す。
瞳は戸惑った様子で、その紙片に視線を落とした。
友恵、幸せになってね。
そう記されている。
それを見てなにを思ったのか、洋樹にはわからない。
「瞳……」
洋樹は瞳の肩に手をかけた。
「俺たちのところに戻ってきてくれ。そして……俺たちの家族になってくれ」
「…………」
瞳は黙って首を横に振った。
「やっぱり……許してはもらえないか」
「違う!」
彼女は大声で叫んだ。
「べつにおじさんを恨んでなんかいない! でも……でも……」
「わかった、もういい」
洋樹は笑って答えた。
「今いったことは全部忘れてくれ。おまえは春日友恵じゃない。間瀬瞳だ」
そう告げて彼女に背を向ける。
あふれ出す感情を、洋樹はぐっと堪えた。
5
午後十時五十八分。
「あと二時間だな」
背の低い男がそう口にする。
「ああ……緊張してきたぜ」
もうひとりは柱に縛りつけられた女の顔を見てにやりと笑った。
その光景を見て、俊の鼓動はますます早まった。
俺はどうすればいいんだろう?
額から汗がこぼれ落ちる。
その場から一歩も動くことができなかった。
もし、あの男たちに見つかったら、自分もただではすまないだろう。
(1986年8月5日執筆)
つづく