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MAD LIFE 231
16.姉弟と兄妹(4)
2(承前)
立澤組が末木力を殺したのだと勘違いした西龍組は立澤組の事務所を襲撃した。
瞳は立澤組の経営する会社で兄、浩次と再会する。
そして、立澤の死。
兄との別れ。
「立澤栄は死んだのか?」
晃が目を大きく見開く。
「うん……撃たれてから一週間、重体のまま生きていたらしいんだけど、昨日の朝、亡くなったって」
「西龍組の誰がやったんだ?」
「立澤を撃ったのは西龍組の組員じゃないよ。撃ったのは女の人で――」
瞳はそこで言葉を呑み込んだ。
この先を口にしていいものかどうか迷う。
……いわないほうがいいに決まっている。
少なくとも今はまだ。
「……女の人?」
晃は怪訝な表情を浮かべた。
「女って誰だ?」
「さあ?」
瞳はとぼけてみせる。
「あ、そうそう。美味しいクッキーがあったんだ。食べる?」
立ち上がり、キッチンへ向かおうとしたそのとき、
「瞳」
晃の声が背中に届いた。
「なにを隠してるんだ?」
「な、なんにも隠してないよ」
「そうか」
もっと追及されるかと思ったが、晃はあっさりと引き下がった。
「それならいいんだ」
瞳は震えた手でクッキーの箱を取りながら、あのときのことを思い出す。
爆音。
火薬の臭い。
鮮血。
撃たれた立澤は私に近づいてきて、こういった。
(1986年3月31日執筆)
つづく
この日の1行日記はナシ