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KUROKEN's Short Story 03

国語の教科書に載っていた星新一の「おーい でてこーい」にいたく感動した中学生のころ。ちょうど〈ショートショートランド〉という雑誌が発刊されたことも重なって、当時の僕はショートショートばかり読みあさっていました。ついには自分でも書きたくなり、高校時代から大学時代にかけて、ノートに書き殴った物語は100編以上。しょせん子供の落書きなので、とても人様に見せられるようなシロモノではないのですが、このまま埋もれさせるのももったいなく思い、なんとかギリギリ小説として成り立っている作品を不定期で(毎日読むのはさすがにつらいと思うので)ご紹介させていただきます。

傷ついたレコード

 俺が命の次に大切にしていたビートルズのレコードを、あろうことかMは床に落としてしまった。
 汗で手がすべっただって? ふざけるな!
 俺はすぐにレコードを拾い上げたが、テーブルの脚に当たったのがまずかったのか、盤面には大きな傷が入っていた。
「おまえ、なにやってるんだよ!」
 頭に血がのぼった俺は、Mを思いきり突き飛ばした。
 Mはテーブルの角で頭を打ち、それっきり目を覚ますことはなかった。
「嘘……だろ?」
 途端に、後悔の念が押し寄せる。
 Mは死んだ。
 俺が殺したのだ。
 俺は取り返しのつかないことをしてしまった。
 どうすればいいんだろう?
 頭を抱えて小さく呻いたそのとき、俺の頭上でプツッという音が聞こえ、俺は意識を失った。

 ……。
 …………。
 目を覚ます。
 どれくらい眠っていたのだろう?
 上半身を起こすと、俺の前にはMが立っていた。
「おっ。ビートルズのレコードじゃん。聴いてもいいか?」
「あ……ああ」
「サンキュー」
 Mはにっこり笑うと、俺が命の次に大切にしているレコードにさわろうとした。
 なにが起こったかはすぐに理解した。
 針が飛んだのだ。
 俺の人生が記録されたレコードにも、きっと大きな傷が入っていたのだろう。
 事態を把握した俺は、Mより先にレコードをつかむと、安堵のため息をこぼしながらプレイヤーの電源に手を伸ばした。

(1986年8月31日執筆)

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