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MAD LIFE 085

6.女の勇気に拍手!(11)

2(承前)

「お恥ずかしい話ですが……」
 中西は宙を仰ぎながらいった。
「僕は警察の奴らに、すべてしゃべるつもりでいました」
「だが、君はなにもいわなかった」
「ええ……急になにもいえなくなってしまったんです」
 情けない表情で答える。
「僕のひとことで、あの娘は兄を失う……幸せを失う……そう思ったら言葉がなにも出てこなくなってしまって……」
「しかし、今のままではなにも解決しない、といったのは君だぞ」
「じゃあ、春日さんはなぜ警察に打ち明けなかったんです?」
 中西の質問に、洋樹は首をうなだれた。
「どうしてなんです?」
「俺は瞳に恨まれたくなかった」
 先生を前にしてなにもいえなくなる子供と同じ――情けない話だ。
「なぜなんでしょうね」
 中西がいった。
「……え?」
「だって、なにも話さなかったら、僕も春日さんも殺人犯になってしまうんですよ。それなのに……自分の身を犠牲にしてまで、僕たちはあの少女を助けようとしています。なぜなんでしょう?」
 はるか遠くを見つめながら彼は言葉を紡ぐ。
 洋樹ははっとした。
「中西……まさか、君……」
「なんです?」
「瞳のことを好きなんじゃ――」
「まさか」
 中西は笑った。
「なんで僕が」
 中西の笑顔の下に、洋樹は彼の違う一面を見たような気がした。
 中西は自分の気持ちにまだ気づいていないだけだ。
 このときの洋樹の勘が正しかったことはもう少し先になってからわかることとなる。

(1985年11月5日執筆)

つづく

1行日記
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