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アパレルショップ綺羅の事件簿 16
6 〈綺羅〉店内
舞台中央にほのか。その周りを遥、仁恵、早紀が取り囲んでいる。下手に呆れ顔の麻美。上手に腕組みをしたうらら。
仁恵 「あれ? あなたのお友達はどこへ行っちゃったの?」
遥 「お腹の調子がよくないといって、公園のトイレへ駆けていきました。すぐに戻ってくると思いますけど」
仁恵 「なんか悪いものでも食べたのかな? たとえば、ほのかちゃんのシュークリームとか」
ほのか 「ひっひっひっ。ほのかのシュークリームはひと口食べただけであら大変。途端にお腹がゴロゴロゴロ~ッ……て店長、ひどい! ほのか、意外と料理上手なんだから」
その場の全員を見回すほのか。
ほのか 「誰がほのかのおやつを盗んだの? 初めて作ったシュークリームだったんだよ。まだ味見もしてなかったのに。さあ、正直に白状して! ロッカーからシュークリームを盗んだのは誰?」
麻美 「あのさ、ちょっと待ってもらえる? 事件が起きたからって電話で呼び出しを受けて、慌てて駆けつけたんだけど……もしかして、事件ってそのことなのか?」
力強く頷くほのか。
麻美 「悪いけど帰らせてもらうよ。貴様らみたいに暇じゃないんでね。おやつを盗んだのは誰か? なんて、そんなことは私に頼らず、自分たちで解決してくれ」
ほのか 「勘違いしないで。ガードマンさんに事件を解決してもらおうなんて、誰も考えてないから」
麻美 「え? どういうこと?」
ほのか 「ガードマンさんは容疑者のひとり」
麻美 「なに? 私は貴様のおやつを盗んだ犯人として疑われてるのか? なんでだ?」
仁恵 「今日、この店に立ち寄った人は全員、容疑者なんだって」
麻美 「なんだよ、それ。私は貴様のおやつになんてこれっぽっちも興味ないからな」
うらら 「あなたが犯人かどうか、それは私が判断します」
麻美 「(戸惑った様子で)誰だ、こいつ?」
遥 「(なぜか得意げに)女子高生探偵の星崎うららさん。数々の難事件を解決してきた名探偵なんだって。すごいでしょ」
麻美 「女子高生? (うららをじろじろと見て)いや、どう見てもアラサーだろ?」
うらら 「(いきなり麻美を指差し)犯人はおまえだあっ!」
麻美 「え? え? 図星を突かれたから逆切れ?」
うらら 「(麻美の首を絞めながら)誰がアラサーだ、ドアホ! 犯人はおまえで決まりじゃ!」
仁恵と早紀、麻美からうららを引きはがし、なだめる。
早紀 「探偵さん、落ち着いてください」
仁恵 「(馬をなだめるみたいにうららの後頭部を撫でながら)はい、どうどうどう」
うらら 「あ……私としたことが。いけない、いけない。うらら、しっかりしろ。(麻美に向かって)許してにゃん♪」
麻美 「(怯えながら)なに、この女? めちゃくちゃ危ない奴じゃないか」
うらら 「まあ、些細なことは気にせず――」
麻美 「いや、気になるって」
うらら 「今回の事件について、皆さんからお話をうかがいたいと思います」
麻美 「こらこら。私の話を聞いてるか?」
うらら 「まずは永田ほのかさん」
麻美 「無視かよ」
うらら 「ほのかさん。大切にしていた百カラットの宝石が盗まれた事件について、もう一度詳しく説明していただけますか?」
麻美 「(仁恵に向かって怪訝そうに)百カラットの宝石? 盗まれたのはおやつだろ?」
仁恵 「宝石のほうが雰囲気出るからって、探偵さんが勝手に。まあ、つきあってあげてよ」
つづく