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MAD LIFE 321

22.歯車は壊れた(2)

1(承前)

 私にとって、お兄さんとは一体なんだったんだろう?
 走りながらそんなことを漠然と考える。
 お兄さんにとって、私はどんな存在だったんだろう?
 ……お兄さんは私に銃を向けた。
 私を殺そうとした。
 なぜ?
 そんなにも私のことが邪魔だったの?
 ふと気がつくと、瞳はアパートに戻り、押入れの中にある開かずの金庫の前に立っていた。
 底の深いポケットから鈍く光る鍵を取り出す。
 ここに……私の秘密が隠されているんだ。
 唇を一文字に結び、瞳は金庫の鍵穴にその鍵を差し込んだ。

「ただいま」
 俊は泥まみれになったバットを玄関脇に置くと、額の汗を軽く拭った。
 ひどく喉が渇いている。
「母さん、ジュースある?」
 家の奥に向かってそう呼びかけると、目の前にいきなり父が現れた。
「父さん……今日はやけに帰りが早いんだね」
「俊、こっちへ来い」
 父――洋樹は俊をひと睨みすると、彼に背中を向けて歩き始めた。
 父の険しい表情に、なにやらただならぬものを感じる。
「そこに座れ」
 居間の中央に座り込むと、洋樹は抑揚のない口調でそういった。
「なに? 父さん」
 父の前に正座して、身を乗り出す。
「おまえ……屋根裏部屋へ入っただろう?」
 やはりそのことだったか。
 俊は心の中で舌打ちした。
「どうなんだ?」
 洋樹が有無をいわさぬ勢いで訊く。

 (1986年6月29日執筆)

つづく

1行日記
うわーん、200背 3位……タイムは2分33秒07。


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