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アパレルショップ綺羅の事件簿 27

8 〈綺羅〉店内(承前)

   「だけど、みんなもこの人のこと無視してたよね?」

仁恵  「変なお客さんは下手に刺激しないほうがいいでしょ? 無視するのが一番。とくに害もなかったし、放っておいたらそのうちいなくなるかなあと思って」

麻美  「店長になにかいわれたら注意しようかと思ってたけど、マネキンの真似をして立ってるだけだから、私もまあいいかなと黙認していたわけで」 

早紀  「私も変な人には関わらないほうがいいかなと思って無視していました」

ほのか 「ほのかはただ単純に面白かったからさ。この人がマネキンっていい張るなら、それに合わせようかなって思って」

   「え? 楓もマネキンじゃないって気づいてたの?」

   「もちろん。てか、気づかないほうがおかしいでしょ」

うらら 「え? え? え?」

   「どうやら、遥と探偵さんだけは、そのマネキンを本物だと勘違いしていたみたいね。もう……純粋すぎるでしょ」

 麻美、キラの腕をつかむ。

麻美  「ただマネキンの真似をしているだけなら、黙認するつもりだったが、店のマネキンにこんな悪戯をしたとなると、無視するわけにもいかないな。一緒に警察まで行こうか」

キラ  「いや、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。ごめんなさい、ごめんなさい。マネキンに悪戯をしたことは謝ります。ほんの出来心なんです。私よりそっちのマネキンのほうがスタイルもいいし、着ている服も高級だし……悔しくてつい嫉妬しちゃって……だから裸にして落書きしました。(ぺこぺこと頭を下げて)ごめんなさい。反省してます。だから警察だけは勘弁してください」

麻美  「どうする、店長?」

仁恵  「マネキンを弁償してくれるなら、べつにあたしはいいけどさ」

キラ  「弁償します。必ず弁償しますから」

   「ねえ。その人がマネキンじゃなくてただの人間だとしたら、第二の事件の真相も変わってきちゃうよね?」

   「第二の事件って、店員さんのおやつが盗まれちゃった事件のこと?」

   「うん。だって、うららさんの推理だと、店長さんはマネキンの腕をマジックハンドみたいに使って、高い場所にひっかけてある合鍵を取ったことになってるんだよ。でも、人間の腕ははずすことなんてできないから、合鍵を取ることも不可能。じゃあ、シュークリームを盗んだ犯人は誰だったの?」

ほのか 「あ。(マネキンを指差し)この人、ほのかが出勤してきたときにはもうお店にいたから、ほのかがロッカーにおやつをしまったことも知ってたはずだよ。ハイヒールを履いてるから身長もかなり高いだろうし、彼女なら壁のフックにも手が届いたんじゃないかなあ?」

キラ  「(いきなり土下座して)申し訳ございませんっ! お腹が空いてしまったのでつい……」

つづく

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