KUROKEN's Short Story 04
国語の教科書に載っていた星新一の「おーい でてこーい」にいたく感動した中学生のころ。ちょうど〈ショートショートランド〉という雑誌が発刊されたことも重なって、当時の僕はショートショートばかり読みあさっていました。ついには自分でも書きたくなり、高校時代から大学時代にかけて、ノートに書き殴った物語は100編以上。しょせん子供の落書きなので、とても人様に見せられるようなシロモノではないのですが、このまま埋もれさせるのももったいなく思い、なんとかギリギリ小説として成り立っている作品を不定期で(毎日読むのはさすがにつらいと思うので)ご紹介させていただきます。
価値
みんな、夏休みの宿題の作文は持ってきたかしら?
よしよし、忘れてきた子はいないみたいね。
あきら君、よく書けてるわ。そうそう、夏休みに入った直後に起こった大地震はびっくりしたわね。先生の家も半分、壊れちゃったのよ。あのときの悲惨な状況が詳しく書かれていて素晴らしいと思います。
よしこちゃん、あなたのお兄さんは大事故を起こしたあの列車に乗っていたのね。無事で本当によかったわ。事故が起こったときの様子をお兄さんから詳しく聞いて、それを作文にまとめたのね。先生の知らない事実まで書いてあって、大変驚きました。
あけみちゃんのおうちには、家庭用ロボットがやって来たのね。うらやましいわ。どんな家事もあっという間にやってくれるんでしょう? ロボットの魅力がとてもよく伝わってくるし、詳しい操作方法までわかって、先生も勉強になりました。
しげる君……あなたの絵日記はあまり感心できないわね。え? どこがダメかって? 書いてあることが平凡すぎるのよ。朝六時に起きて、ラジオ体操をして、朝ご飯に味噌汁と目玉焼きと味付けのりを食べて、それからみつる君と鬼ごっこをして遊んで……あのね、しげる君、作文っていうのは、こんなどこにでもある日常じゃなくて、みんなが興味を惹くような変わった出来事について書かなくっちゃ。いい? わかった? こんな平凡な作文にはなんの価値もないのよ。
西暦8✕✕✕年。
TOKIOシティ保存区域から、六千年以上前に書かれたと思われる文献が発見された。
「とくに目新しいことはなにも書いてないなあ。多数の死者を出した東京大地震……列車の運行が廃止されるきっかけとなった大事故……一大ブームとなった家庭用ロボット……これらはすべて、すでに見つかっている昔の新聞に載っていることと同じだ。
我々が知りたいのは、二十世紀の庶民の生活なのだよ。誰もが珍事ばかりを後世に伝えようとしたがるがそうじゃない。我々が本当に知りたいのは、ありきたりの日常なのだ。当時の人々の思想や文化は、そういった日常からしか知ることができないのだからな」
考古学者のHが嘆き悲しんでいたそんなときである。平林滋という男の書いた価値ある文献が発見されたのは――。
(1986年10月19日執筆)