KUROKEN's Short Story 05
国語の教科書に載っていた星新一の「おーい でてこーい」にいたく感動した中学生のころ。ちょうど〈ショートショートランド〉という雑誌が発刊されたことも重なって、当時の僕はショートショートばかり読みあさっていました。ついには自分でも書きたくなり、高校時代から大学時代にかけて、ノートに書き殴った物語は100編以上。しょせん子供の落書きなので、とても人様に見せられるようなシロモノではないのですが、このまま埋もれさせるのももったいなく思い、なんとかギリギリ小説として成り立っている作品を不定期で(毎日読むのはさすがにつらいと思うので)ご紹介させていただきます。
動物病院
「先生」
「おや、どうした? 君は……えーと……オットセイだったっけ?」
「いいえ、トドです」
「ああ、トドか。すまん、すまん。三丁目のタバコ屋の看板娘を忘れるなんて、私も年を取ったかな?」
「いえ、先生はいつも若々しいですよ」
「それはどうも。君も一段と美人になったね。もしや新しい恋でもしているとか?」
「新しい恋だなんて……先生、あたしはもう結婚してるんですよ。夫以外の男性に興味なんてありません」
「冗談だよ、冗談。で、今日はどうした? 顔色が悪いみたいだけど……」
「先生。あたし、最近変なんです」
「というと?」
「ちょっとしたことですぐにイライラしちゃって……」
「ストレスがたまっているのかな?」
「胸のあたりがちくちく痛んだり、お腹が妙に張ったり……」
「それはよろしくないね」
「あと、急にすっぱいものがほしくなったり……」
「ああ」
「今日は朝から気分が悪くて、ついに食べたものをすべてもどしてしまいました。一体、どうしちゃったんでしょう?」
「それは君、とどのつまり、トドのつわりだよ」
(1986年4月20日執筆)