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MAD LIFE 319
21.ワーストチャプター(16)
6(承前)
「お兄さん!?」
なにが起こっているのか、瞳には理解できなかった。
兄の手にした拳銃の先はまっすぐ瞳の胸に向けられている。
「まさか……私を撃つの?」
「ああ」
浩次は冷酷極まりない表情で頷いた。
「……どうして?」
「理由なんてない。俺はそういう人間なんだ。俺の身体には平気で人を殺すことのできる狂った血が流れているんだよ」
「…………」
「と説明したところで、おまえには理解できないだろうな。なんせおまえには俺とは違う血が流れてるんだからさ」
「理解できないよ……できるわけないじゃない」
かすれた声が漏れる。
浩次はゆっくりと撃鉄を起こした。
「おまえを殺す」
彼の指に力が入るのがわかった。
「瞳さん! 逃げて!」
江利子が叫ぶ。
「……冗談だよね?」
瞳は兄の顔をじっと見つめ、そう口にした。
「血の繋がりってなに? 同じ血が流れてなかったら、私たちは兄妹じゃないの? そうじゃないでしょう?」
「うるさい、黙れ。俺は本気だぞ」
「私は信じてる。お兄さんが私を殺そうとするはずなんてない。私の知っているお兄さんはそんな――」
瞳がそこまでしゃべったところで、銃の引き金は引かれた。
「危ない!」
瞳の前に江利子が立ちはだかる。
爆音。
そして、江利子のうめき声。
すべては最悪の方向へ――
(1986年6月27日執筆)
つづく
この日の1行日記はナシ