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下手の横スキー32
第32回 ザウスの思い出
このエッセイを毎回楽しみにしてくださっている全国7名の皆さん(前回より1名減った)、こんにちは。
昨日、ようやく新作長編を脱稿し、喜びのあまり力みすぎて、脱肛となった黒田です。うーん、誰かひっこめて、ひっこめてええええ。
しかし、梅雨どきだっていうのに、メチャクチャ暑いですな。
今の時期にこれだけ暑いってことは、夏本番になったら軽く100℃を超えて、そこら中のものがぐつぐつと沸騰し始めちゃうんじゃないでしょーか。
え? ぐつぐつと沸騰?
「あのダイヤ、盗んじゃおっかなあ。質屋に持ってったら、高く買ってくれるんじゃないかなあ。盗もっかなあ。どうしよっかなあ。お、店員の奴、こっち見てないぢゃん。よーし、盗んじゃえ。あ、簡単に盗めちゃった。ラクショー、ラクショー。もしかして俺って才能ある?」
いや、これはぶつぶつと(独り言を呟きながらの)窃盗だな。括弧付きじゃないとわからないよーな駄洒落はやめなさいって。そんなことだから、「ねえ、最近、加齢臭しない?」とかいわれちまうんだよ。
…………。
さて、前置きはこれくらいにして、「下手の横スキー」を読んでくださっている6名の皆さん(また減った)。テキトーに書いた本編を(をい)、どうぞお楽しみください(ハート)。
毎日毎日これだけ暑いと、雪が恋しくなってきます。
でも、スキーシーズンはまだまだ先。あーあ、昔だったら季節に関係なく、ザウスへ出かけてスキーを楽しむことができたのになあ、と当時を懐かしく思い返したり。
そんなわけで、今回はザウスのお話。
といっても、あの夢のレジャー施設がこの世から消え失せ、すでに3年近く経ちますから、「ザウス? なんじゃ、そりゃ? 肩こりに効くヤツ?」とか思ってる人も多いかもしれませんね。
簡単に説明しておきます。ザウスは、正式名称を「ららぽーとスキードームSSAWS(ザウス)」と申しまして、1993年7月に千葉県船橋市にオープンした世界最大の屋内スキー場であります。
いや、その広さったらホント、ハンパじゃなかったんですよ。僕のおぼろげな記憶を頼りに書いてるんで、正確かどうかはわかりませんけど、確か四百メートル以上の距離を一気に滑り降りることができたはず。
コースバリエーションも豊富で、一日いてもまったく飽きませんでした。いや、実際には時間制限があったので、一日まるごと楽しむのは無理だったんですけどね。
「SSAWS」という名前は、SPRING、SUMMER、AUTUMN、WINTER、SNOWの頭文字をとってつけられたもの。一年中、雪とたわむれることができるよ! という意味が込められていたんでしょーね。決して、「3丁目の慎太郎君が慌ててワクチン接種した」の略ではありません。誰だよ、慎太郎君って。
ザウスへ初めて出かけたのは、今から12年前。今よりずっとスリムで、顔は山田孝之似で、腹筋も17個くらいに分かれてて、某企業で期待の新人と噂されながらバリバリと働いていた頃ですね。ってゆーか、腹筋が17個に分かれてたら気持ち悪いって。
なんとなんと、当時住んでいた奈良から船橋まで、車に乗って日帰りで出かけたんです。いやあ、若かったんでしょうね。今ならきっと、往きの静岡あたりでリバースしながらくたばってたと思います。
生まれて初めて目にする室内スキー場には、メチャクチャ感激しました。
だって、夏なのに雪があるんですよ。夏なのに気温がマイナス5℃なんですよ。夏なのにカレーライスを売ってるんですよ。それはべつに珍しくないか。夏なのにお別れですか♪ それは柏原芳恵のヒット曲だな。微妙に季節が間違ってるけど。
夏場に滑れるスキー場は、国内にここひとつしかなかったわけですから、当然、有名なデモンストレーターもわんさか集まってきてまして。憧れのデモンストレーターの滑りを間近で見られるなんて、夢みたいな気分でした。
ゲレンデの外には、地元では絶対に見かけない、お洒落な飲食店やスポーツショップが立ち並んでるわ、綺麗なコンパニオンのお姉ちゃんがそこら中で笑顔をふりまいてるわ、「東京ってすげえとこずら」と、最初から最後まで田舎者丸出しで驚きまくってましたね。
当時撮影した8ミリビデオを見返すと、僕のはしゃぎっぷりがよくわかります。皆様にもシナリオ形式でご紹介いたしましょう。
雪だるまのアップ。
カメラがズームアウトすると、雪の上で僕が腰に手を当ててスキップしている。
僕「雪だああああっ!」
急に這いつくばり、腰をかくかくと動かし始める僕。
僕「夏なのに雪だああああっ!」
ほかの客が、「なんだ、こいつ?」と怪訝そうな顔で通り過ぎていく。
僕「ザウス、おまえが好きだああああああっ!」
周りの目など気にせず、ひたすら腰を動かし続ける僕。
僕「あ、いく、いく、いくっ! 雪でゆきますうううっ!」
…………。
このあと、とてもここには書けないようなシモネタを連発。さらに、いやがる友人を無理矢理雪の上に寝転がし、その上に「ふう、疲れた。どっこいしょ」と腰かけて、「ザウスで座椅子」とくそつまらない駄洒落をこいたりしてました。
12年前のおまえ。永遠にさようなら。
こんな楽しいところなら、毎週でも行ってやるぞ! と意気込み、実際に3回ほど繰り返し出かけたのですが、やはり東京は遠すぎました。
その後、仕事をやめたり、体重が増えたり、山田孝之から山田花子に変貌したりと、身辺が慌ただしくなるうちに、自然と足が遠のいてしまったんです。
作家になり、東京へ出かける機会が増え、じゃあそのついでにスキーもしちゃおうと、再びザウスを訪れたのは2001年。
7年ぶりに訪れてみてびっくり。ゲレンデそのものは昔とまったく変わっていなかったんですが、あれだけあったお洒落なお店は、跡形もなくなくなってました。コンパニオンのお姉ちゃんもいなくなって、ずいぶんと質素な雰囲気。
あれれえ? これって、ひょっとしたらヤバイんじゃないの?
不吉な予感は的中し、翌年の9月にザウスは閉鎖。9年の歴史に終止符が打たれたのでありました。
うーん、残念。
最近は月一ペースで東京に出かけてますから、もし今でもザウスが残っていたなら、行って行って行きまくってたんだけどなあ。
あの巨大な建物はその後まもなく解体されてしまい、来年にはスウェーデンの家具メーカー「イケア」の国内第1号店が建つんだそーな。
たぶんもう二度と、あんな素晴らしい施設が日本に造られることはないんでしょーな。
さらば、ザウス。
さらば、青春の幻影。
そーいえば、ザウスの外観って、「銀河鉄道999」の高架橋によく似てたよなあ……(しみじみ)。