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MAD LIFE 084

6.女の勇気に拍手!(10)

1(承前)

「……瞳さん」
 由利子が弱々しい声を発した。
「これは一体、どういうことなの? 私……あなたの部屋で気を失って……気がついたらこんなところに閉じこめられていたんだけど……」
「説明はあとでします。今は早く逃げましょう」
 タイミングよく、由利子のロープがほどけた。
「さあ、早く」
「え……ええ」
 瞳にうながされるまま、由利子は立ち上がった。
「おっと、逃がすものか」
 小池の声が耳に届く。
 同時に、倉庫の扉が閉まった。
 瞳は慌てて扉に飛びついたが、時すでに遅し――南京錠のかけられる音が響く。
 扉を力いっぱい引っ張ったが、もうそれはびくともしなかった。
「出して!」
 両手の拳で扉を叩く。
「お願い! ここから出して!」
 もうあと少しで逃げられたのに……。
 悔しさに涙がこみあげる。
「おじさん……」
 瞳は呟いた。
「どうしたらいいの? ねえ、教えてよ……おじさん」
 午後十一時。

 洋樹と中西は留置所の中にいた。
 ふたりは結局、警察になにひとつ話すことができなかった。
 事実を伝えれば、ふたりの容疑は晴れる。
 それがわかっていたにも拘わらず、彼らは黙秘を貫きとおしたのだ。
「どうして話してしまわなかったんです?」
 中西が洋樹に尋ねる。
「君こそ、どうして?」

(1985年11月4日執筆)

つづく

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