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逆転検事 ヤンマガ版未発表脚本11

燃え盛る逆転(11)

《登場人物》
・御剣怜侍(みつるぎ・れいじ)……検事局始まって以来の天才検事
・糸鋸圭介(いとのこぎり・けいすけ)……所轄署で殺人の初動捜査を担当している刑事、御剣とは旧知の仲
X鞍馬満天(くらま・まんてん)……体操選手、大学構内で遺体が発見される
・智槍啓太(ちやり・けいた)……競輪選手
・大地翔(だいち・かける)……陸上選手、深夜3時にボヤを見つけて消火活動
・河童沙良(かわどう・さら)……水泳選手
・目樽望(めだる・のぞむ)……学長

▼シーン11

 広場。ベンチに座って考え込んでいる御剣。

〈御剣〉(学長が受け取った学生のドーピングを告発する文書……果たして、連続放火事件と関わっているのか? もし関わりがあるとしたらそれは一体……?)

 糸鋸、封筒を持って駆け寄ってくる。

〈糸鋸〉「御剣検事。こんなところにいたッスか。捜したッス」
〈御剣〉「どうした? 犯人の見当はついたか?」
〈糸鋸〉「それはまだッスけど……検死の結果が届いたので、お見せしようと思ったッス」

 封筒を差し出す糸鋸。

〈御剣〉「ご苦労」[中身を確認して]「やはり我々は、大きな間違いを犯していたようだな」
〈糸鋸〉「え? どういうことッス?」
〈御剣〉「貴様もこれに目を通したのだろう? 気づかなかったのか?」
〈糸鋸〉「いえ……とくになにも」
〈御剣〉[呆れ顔で]「よくそれで刑事が務まるな」
〈糸鋸〉「面目ないッス」
〈御剣〉「いいか? 被害者は右腕を骨折していたと書いてある」
〈糸鋸〉「たぶん、犯人ともみ合ったときに折ったッスね」
〈御剣〉「違う。本当にちゃんと目を通したのか? 骨折は1ヵ月ほど前のもので、すでに治りかけていたそうだ。これがなにを意味するかわかるか?」
〈糸鋸〉「さすが体操界の貴公子。鞍馬選手は我慢強かったんスね。骨折しながらも、トレーニングを欠かさなかったなんて――」
〈御剣〉「馬鹿者! 腕を骨折している人間がベンチプレスなどするものか!」
〈糸鋸〉[首をすくめ]「ひっ!」
〈御剣〉「彼はトレーニングなどしていない。すべて真犯人の偽装工作だったのだろう。犯人は被害者を殺害したあと、さもトレーニング中に起きた事件のように細工を施し、その上でホールに火をつけたのだよ。連続放火魔の仕業に見せかけるためにな」
〈糸鋸〉「え? じゃあ、鞍馬選手を殺した犯人は連続放火魔じゃないッスか?」
〈御剣〉「そのとおり。連続放火魔の犯行なら、現場にわざわざ火をつけようとは思わないだろう。自分が犯人だとアピールするようなものだからな」
〈糸鋸〉「放火魔を捕まえようとして、逆襲に遭ったんじゃないとしたら……鞍馬選手はどうして殺されたッス?」
〈御剣〉「残念ながら、捜査はふりだしに戻ってしまったようだな」[告発書を取り出し]「現時点で手がかりになりそうなものは、これくらいか」
〈糸鋸〉「なんスか、それ?」
〈御剣〉「学長が白状した。昨晩、学長室に集められた4人には、ドーピングの疑いがかけられていたらしい」
〈糸鋸〉「えええッ? あの4人の中に、そんな不届き者が……。でも、そうとわかったら、徹底的に調べるべきッス。3人の……いや、亡くなった鞍馬選手も含め、全員の身辺を徹底的に調べるッス!」[駆け足で立ち去ろうとするが、なにかに気づいたのか不意に動きを止め]「……あ」
〈御剣〉「どうした?」
〈糸鋸〉[振り返り]「きっと、大地翔が犯人ッス! だって、そうでしょう? あんな真夜中に火事を見つけるなんて、怪しすぎるッス! まず、彼から調べるッス! うおおおおっ! 燃えてきたッス!」

 興奮した様子で立ち去る糸鋸を、呆れ顔で見送る御剣。

〈御剣〉(犯人も馬鹿じゃない。今さら調べたところで、手がかりが残っているとは思えぬが……)

 物陰から御剣の様子をうかがう謎の人物1名。

                           つづく

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