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MAD LIFE 116

8.今、嵐の前の静けさ(10)

4(承前)

「しかし……」
 浩次はなにかためらっていた。
「お兄さん、この一週間、どこにいたの? ここでなにをしているの?」
 兄はなにも答えない。
「この会社って立澤組が関わっているんでしょう?」
 兄の視線が瞳からそれた。
「お兄さん……どうして? どうしてこんなところにいるの?」

「……瞳」
 洋樹は合鍵を使って、瞳の住むアパートのドアを開けた。
 誰もいない。
 あいつ……どこへ行ったんだ?
 不安な思いはなますます膨らんでいく。

 夕映え背にしてあなたはため息
 「幸せに飽きたよ」と……
 ペーパーバックの探偵みたいね
 悲しくておかしいわ
 抱きしめてあげたいくらいに
 次の誰かに愛されてあげなさい
 口笛を鳴らしてジョークを飛ばして
 いつの間にかわがままに疲れたこの愛がつらいの
 夜明けには出ていくわ

 背中で見つめる誰かがいるって
 知ってたの最初から
 夜更けの受話器を取るたび黙って
 寂しげに切れたから
 少年の寝顔がキレイね
 実らない夢 口にするあなたの
 横顔を飽きずに見てたあの頃
 でも今では悲しいけどわかるの
 あなたには夢さえもて遊ぶジョークなの

 次の誰かに愛されてあげなさい
 私よりやさしい胸に甘えて
 でも心に風が吹く夜には抱きしめてあげるわ
 思い出のぬくもりで――

(1985年12月6日執筆)

つづく

1行日記
コンサート、楽しかったあ。とくに「オペレーター」がよかったです……風邪をひいちまったあ! 

※八神純子「抱きしめてあげる」の歌詞全文を引用

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