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MAD LIFE 117

8.今、嵐の前の静けさ(11)

4(承前)

 ステレオコンポの上に置かれていたその詞を見て、洋樹は苦笑した。
 薄いブルーの便箋に、瞳の筆跡で記されている。
 これが今の瞳の気持ちなんだな。
 ……いや、瞳だけじゃない。
 由利子もたぶん、そうなのだろう。
「瞳……おまえの気持はよくわかったよ」
 洋樹は呟いた。
「もうおまえを追いかけたりはしない……」

 あなたには夢さえもて遊ぶジョークなの

 瞳と過ごした一週間が鮮やかによみがえる。
 その記憶はあまりにも眩しすぎた。

 私……気がつかなかった。

 瞳の声が頭の中に反響する。

 今まで気づかなかった……私、おじさんを好きになってる。
 いけないってことはわかってる……おじさんに迷惑がかかるてことは百も承知。
 でも、どうすることもできないの。

 俺だって同じだ。
 洋樹は頭を振った。
 俺も……この気持ちをうまくコントロールできないでいる。

「……大阪へ行ってたんだ」
 浩次は答えた。
「大阪?」
「あっちには俺の友人がたくさんいるから……彼らを頼りに、働き口を見つけようと思ってな」
 ため息まじりに瞳の顔を見る。
「でも、そう簡単にはいかなかった」
 浩次は悔しそうに唇を噛んだ。

(1985年12月7日執筆)

つづく

1行日記
ぐすっ……風邪ひいて今日のテストは最悪……早く元気にならねば……。 

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