逆転裁判 小説版未発表プロット18

逆転の道標（１８）

《登場人物》
▼グリーンモンスター……５人組お笑いユニット。全員が怪物に扮し、どたばたコントを演じる。舞台を中心に活躍。全国各地を忙しく駆け回っており、デビューわずか１年で観客動員数50万人を突破。昨年までメンバーそれぞれが、まったく異なる職業に就いていたことも話題となっている。イメージカラーは緑。
〈メンバー〉
・モンスターキング……元スタントマン、鷲鼻を緑色にペイント、炎恐怖症、被害者
・モンスタークイーン……元モデル、美女、右目の周りを緑色にペイント、高所恐怖症、被告人
・ドラキュラ……元医師、前歯を緑色にペイント、赤いコンタクトレンズを装着、得意芸はインチキ催眠術
・ウルフマン……元ギタリスト、聴力抜群、大きな耳を緑色にペイント、得意芸は爪楽器（つけ爪をこすり合わせて音楽を奏でる）
・フランケン……元レスラー、巨体、怪力、頭髪が緑色、ハムスター好き、得意芸はハムスターとのダンス

▼鈴木香菜恵……「逆転の架け橋」に登場、女子大生
▼矢田吹……「逆転の架け橋」に登場、やたぶき屋店主

　８（承前）

〈成歩堂〉「もし、宿泊先で火事に遭遇したとき、御剣検事ならどうします？」
〈御剣〉「むろん、非常口を探すが……。しかし、パーティールームに非常口の表示はなかった」
〈成歩堂〉「犯人が、《非常口はこちらです》と書いた紙をあらかじめ貼っておけば、そちらへ誘導されたのではありませんか？」
〈御剣〉「そんな貼り紙はどこにもなかったではないか！　壁に貼ってあったのはポスターだけ――」

　ポスターの写真を見つめ、言葉を止める御剣。

〈御剣〉「……そういうことか！」
〈真宵〉「なになに？　どういうこと？」
〈成歩堂〉[ポスターの写真を取り出し]「このポスターこそが、キングさんを死の扉へと導く呪いの道票だったんだよ」
〈裁判長〉「死の扉へと導くって……私にはただのポスターにしか見えませんが」
〈成歩堂〉「このポスターはパーティールームの壁――キングさんの部屋の真正面に貼りつけてありました。火事の報せを受け、半ばパニック状態で部屋から飛び出してきたキングさんの目にも、当然入ったに違いありません。彼にはそのポスターが、どのように見えたと思いますか？」
〈真宵〉「赤い部分は背景に溶け込んで見えなくなっちゃうから、緑色のところだけ見えたことになるよね。文字は落書きでほとんど塗りつぶされちゃっているから、残っているのは数字と鼻の部分だけ……３、３、８……あ。８の真ん中の横棒にも赤いインクが飛び散ってるから、３、３、０だ。こっちのポスターは５０という数字だけが見えることになるね。……それがなに？
〈成歩堂〉「ポスターは横向きに貼ってあったんだから」
〈真宵〉[写真を横にして]「……ああ！」

〈成歩堂〉「そう。３３０は出口、５０はＯＵＴと読めるよね。しかも、キングさんの鼻が矢印になって、バルコニーのほうを向いているだろう？」[ドラキュラのほうを向き]「ドライアイスをバケツにセットするとき、ポスターも貼りつけておいたんですね？　パーティールームの照明を消したのもあなただ。そうしないと、ミーティングが終わって部屋から出てくるとき、ポスターに気づかれてしまいますからね。ついでにいえば、大量の花束をホテルに贈りつけてきた人物もあなたでしょう。そうすれば、みんなに不審がられず、水を用意することができます」
〈ドラキュラ〉「違う！　吾輩はやってない！　ドライアイスをセットしたり、ポスターを貼ったり、そんなことは吾輩でなくたってできたはずだ。誰かが吾輩のコンタクトを奪い取って、隙を見てキングの目に装着したのだろう！」
〈成歩堂〉「だけど、ポスターを制作したのはあなたですよ」
〈ドラキュラ〉「横向きにしたら、出口と読める？　ＯＵＴと読める？　馬鹿馬鹿しい。そんなのは単なる偶然だ！」
〈御剣〉[ドラキュラに対して]「悪あがきはよせ。貴様の負けだ」
〈ドラキュラ〉「なにをいっておる？　貴様、検事だろう？　なにがなんでもあの女を有罪にすることが、貴様の役目ではないのか？」
〈御剣〉「勘違いするな。検事の仕事も弁護士の仕事も突き詰めれば同じ――真実を暴き出すこと、それがすべてだ」
〈ドラキュラ〉「だから、吾輩は犯人では――」
〈御剣〉「コンタクトは片方しか落ちていなかった。では、もう一方はどこへ消えた？」
〈ドラキュラ〉「知るか、そのようなこと」
〈御剣〉「犯人が回収したのだろう。遺体の眼球からコンタクトが発見されれば、トリックを見破られてしまうからな。では、コンタクトを回収できた人物は誰か？　検死前に遺体に近づけた男――瞳孔を見て死亡を確認した貴様しかあり得ない」

　観念し、うなだれるドラキュラ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく