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MAD LIFE 167
11.フェザータッチオペレーション(16)
4(承前)
「食事が終わったら出ていくんだぞ」
味噌汁に手をつけながら、中西はいった。
「冷たいのね」
テーブルに肘をつき、上目遣いで真知がこちらを見る。
「だって、俺は君となんの関係も……ん?」
中西は眉をひそめた。
「なんだ、この味噌汁?」
「おかしい?」
「全然、味がしない」
「あ、やっぱり。だって、お味噌が残り少なかったんだもの」
「新しいのが置いてあっただろう?」
「そうだった?」
「まったく……」
中西は呆れ顔で真知を見たあと、茶碗に不器用によそわれたご飯を、一気に口の中へかきいれた。
「とにかく出て行ってもらうよ。俺が君の面倒を見なくちゃならない理由はなんにもないんだからな」
「じゃあ、あたしはこれからどうしたらいいの?」
「俺が知るかよ。家へ帰ればいいんじゃないか?」
「絶対にイヤ」
真知は激しくかぶりを振った。
「あんな家に帰るくらいなら死んでやるわ」
「どうぞご勝手に。ごちそうさま」
中西は茶碗をテーブルに置くと、丁寧に両手を合わせた。
「もう! 本当に死んでやるんだから!」
真知はぷいっと横を向いた。
彼女を無視して、中西はネクタイを結び始める。
「ん、もう!」
真知はエプロンをはずすと、それをくしゃくしゃに丸めて中西のほうへ放り投げた。
「あたし、死ぬんだから!」
「そんな勇気ないくせに」
「じゃあ、殺してもらう!」
真知は叫んだ。
「〈フェザータッチオペレーション〉に殺してもらうんだから!」
(1986年1月26日執筆)
つづく
この日の1行日記はナシ