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ノセトラダムスの大予言12

 4(承前)

「ねえ、場所はここで大丈夫なの?」
 治樹が尋ねると、亮介は額ににじんだ汗を拭いながら、「ああ、何度も確認したから間違いない。俺たちがいつも登っていたあのクヌギの木から、真南へ十二歩の場所だったろう? 子供の歩幅で歩いてみたから大きな誤差はないはずだ」
「ああ。懐かしいね、あのクヌギ」
 治樹は鼻の下をこすりながら声を震わせた。涙もろい性格は今も変わっていないらしい。晶彦もシャベルを動かす手を止め、「ふう」と歳相応の吐息を漏らして、クヌギの大木を見上げた。天に向かって力強くそそり立つその木に登り、眼下に広がる町を見ながら、三人で多くの夢を語り合ったことを思い出す。
「最後にあの木に登ったのは、卒業式のあと――ここへタイムカプセルを埋めた直後だったよな」
 昔を懐かしむように、遠くを見つめながら亮介がいった。
「地球最期の日に再会しよう。このクヌギの木に登って、地球の最期を見届けよう。そう約束したんだったよね」
 亮介とそっくり同じ表情でクヌギの木を見ていた治樹が、そうあとを継ぐ。
 地球最期の日に再会しよう。そう提案したのは亮介だった。

「俺、あれからいろいろと考えてみたんだ」
 掲示板に写真が張り出され、大騒ぎとなってから数日後、亮介はそういって話を切り出した。
「治樹のロッカーに問題のネガが隠してあったことを知っていたのは俺たち三人だけだ。ってことは、フィルムを盗んだのが俺たちのうちの誰かだってことは絶対に間違いない」
「僕じゃないよ」
 治樹はかぶりを振った。
「もし僕がネガを隠したのなら、『フィルムがなくなった』と騒ぎ立てたはずがないだろう?」
「いや、そうとは限らないさ。フィルムが消えたことをおまえが口にしなければ、掲示板に写真が張り出されたとき、真っ先に疑われるのはおまえだったはずだ。それを避けるために、わざと『盗まれた』などと嘘をついたのかもしれない」
「そんな……なんのために」
「動機は全員にあるよ」
 晶彦はそういって、小さくため息をついた。
「能勢先生をこの学校から追い出すため。僕らに対する態度がすっかり冷たくなってしまったユリを再び振り向かせるため。結果的には僕ら全員、これまで以上にユリに嫌われてしまったわけだけどな」
「犯人は誰か? それをここで問い詰めようとは思わねえよ。もし犯人がわかったら、俺、そいつを殴っちまいそうだからな。どうせあと何日かで俺たちはこの学校を卒業してばらばらになっちまう。最後まで親友でいたいじゃないか。だから、あえて犯人探しをしようとは思わない」
「でも、気になるよ。一体、誰がこんなことをしたのか」
「俺たちはずっとずっと、死ぬまで親友でいたい。でも、真相は知りたいだろう? だからさ、俺たちが死ぬとき――地球最期の日に本当のことを告白し合うことにしようぜ。二十年後の夏、俺たちはここで再会するんだ」
 亮介の提案は、とても魅力的に思えた。
「でも、それまでに三人のうちの誰かが死んだらどうする? 死なないまでも、約束を守らずに現れないことだって考えられるだろう?」
「じゃあ、今ここで本当のことを紙に書いて、誰にも読まれないよう土の中へ埋めるってのはどうだ? タイムカプセルだよ。掘り返すのは二十年後の地球最期の日だ」
 晶彦と治樹は同意した。三人は紙切れに、自分が犯人であるか否かを書き記し、厳重に封印してクヌギの木のそばへ埋めた。
「このことは誰にもしゃべらない。そして二十年間は絶対に掘り返さない。男と男の約束だぞ」
 三人は固く手を握り、泥だらけになった顔を見つめ合って、おたがいに大きく頷いた。
 あれから二十年。ついに約束の日がやって来た。

                 つづく

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