MAD LIFE 317
21.ワーストチャプター(14)
6
「この鍵、なんだかわかるか?」
浩次はテーブルの上に置いてあった銀色の鍵に手を伸ばし、そういった。
瞳は黙って首を横に振る。
「押し入れにある開かずの金庫の鍵だ」
「……え」
意外な回答に、思わず息を呑む。
「じゃあ、あのアルバムに書いてあった――」
「なんだ、知ってるのか?」
浩次はきょとんとした表情を瞳に向けた。
「おまえ……アルバムを見たのか?」
「うん。お父さんとお母さんからのメッセージが残ってた。金庫の中を見てみろって。……でも、金庫の鍵はどこにもなかった。まさか、お兄さんが持っていたなんて」
「ああ……四年以上前のことになるかな。アルバムの整理をしていたとき、偶然、そのメッセージを見つけちまったんだ。俺は好奇心で金庫を開けた」
浩次はそこでいったん言葉を切った。
わずかな沈黙のあと、瞳が口を開く。
「……金庫の中にはなにがあったの?」
浩次は鼻を鳴らして笑い、嘲るような視線を瞳に向けた。
「なにがおかしいの?」
思わず兄を睨みつける。
「瞳、おまえはな――」
浩次は布団の中でもぞもぞと手を動かしながら、口元に笑みを浮かべた。
「おまえは本当は瞳じゃないんだよ」
「……え?」
兄のいったことがよく理解できず、訊き返す。
「私が瞳じゃない?」
(1986年6月25日執筆)
つづく