MAD LIFE 364
24.それぞれの行動(15)
6(承前)
「春日さん……俺は真知のところに行きます」
中西は洋樹のほうに向きを変えてそういった。
その意思は絶対に揺らぎそうにない。
いくら止めても無駄だろう。
「おまえひとりじゃ危なかしくってしょうがない。俺もついていくよ」
洋樹はため息まじりに答えた。
「私、この近くに車を停めてあるから取ってくるわ」
そういって、江利子が走り出す。
洋樹、中西、瞳の三人が小崎邸の前に残る。
みんな、自然に振る舞おうとしているのだろうが、どことなくぎこちなく感じられた。
7
「もうすぐ一時だ」
背の低い男――八神がいう。
「ああ。じゃあ、行ってくる」
背の高いほう――郷田は立ち上がると、柱にくくりつけられて身動きのとれない俊らを見下ろした。
「失敗するに決まってるわ!」
真知が叫んだ。
「誘拐なんて成功するわけないじゃない」
「とっとと捕まっちまえ!」
俊もそう吐き捨てる。
「きさまら騒ぐな」
八神は俊の喉元にナイフを突きつけてきた。
「それ以上騒いだら、ふたりともあの世行きだ」
その台詞を聞き、思わず笑みがこぼれる。
「なにがおかしい?」
「そんなことできるわけがない。あんたはとんだ臆病者だからな」
「なんだと?」
図星を突かれたのだろう。
八神がうろたえるのがわかった。
「きさま……」
ナイフを握る手も小刻みに震えていてる。
「やめておけ、八神」
郷田は八神からナイフを取り上げると、それを倉庫の隅へ放り投げた。
(1986年8月11日執筆)
つづく