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逆転裁判 小説版未発表プロット16

逆転の道標(16)

《登場人物》
▼グリーンモンスター……5人組お笑いユニット。全員が怪物に扮し、どたばたコントを演じる。舞台を中心に活躍。全国各地を忙しく駆け回っており、デビューわずか1年で観客動員数50万人を突破。昨年までメンバーそれぞれが、まったく異なる職業に就いていたことも話題となっている。イメージカラーは緑。
〈メンバー〉
・モンスターキング……元スタントマン、鷲鼻を緑色にペイント、炎恐怖症、被害者
・モンスタークイーン……元モデル、美女、右目の周りを緑色にペイント、高所恐怖症、被告人
・ドラキュラ……元医師、前歯を緑色にペイント、赤いコンタクトレンズを装着、得意芸はインチキ催眠術
・ウルフマン……元ギタリスト、聴力抜群、大きな耳を緑色にペイント、得意芸は爪楽器(つけ爪をこすり合わせて音楽を奏でる)
・フランケン……元レスラー、巨体、怪力、頭髪が緑色、ハムスター好き、得意芸はハムスターとのダンス

▼鈴木香菜恵……「逆転の架け橋」に登場、女子大生
▼矢田吹……「逆転の架け橋」に登場、やたぶき屋店主

 8(承前)

 しんと静まり返る法廷。

〈御剣〉[机を叩き]「はったりはよせ、成歩堂。被害者が12階から落ちてきたとき、ドラキュラは裏庭にいたのだぞ。その男が被害者を突き落とすことは絶対に不可能だ」
〈成歩堂〉「フランケンさんの証言を思い出してください。事件直前、ドラキュラさんはトイレへ行くといって、その場を離れています」
〈御剣〉「わずか数分でなにができる? たとえ猛スピードで12階に駆け上がることができたとしても、そこにはガードマンがいたのだぞ。被害者に近づくのは無理だ」
〈成歩堂〉「キングさんに近づく必要なんてありませんよ。タクシー乗り場の公衆電話までたどり着くことができれば、それでよかったんです」
〈御剣〉「……電話?」
〈成歩堂〉「午前1時58分にキングさんのもとへ電話をかけたのは、やはり犯人だったんですよ」
〈御剣〉「ドラキュラが電話で殺したというのか? どうやって? まさか催眠術を使って飛び降りさせたとか、愚かなことを口にするのではないだろうな」
〈真宵〉「なるほどくん。ドラキュラさんが催眠術の達人だっていうのは、コントの中だけの話だからね」
〈成歩堂〉「催眠術なんて必要ありません。彼はただ電話口でひとこと叫べばよかったんです。『火事だ!』と」

 唖然とする御剣。

〈御剣〉「……気は確かか? 成歩堂」
〈成歩堂〉「キングさんはスタント事故で大やけどを負って以降、炎に対して激しい恐怖を抱くようになりました。火事と聞いて、おそらく冷静な判断ができなくなったんでしょう。そう――彼はパニックに陥り、自ら部屋の外へ飛び出し、絶対に開いてはならない扉を押し開けてしまったんです」
〈御剣〉「異議あり! 机上の空論とはまさにこのことだな。火事の報せを受け、部屋の外へ飛び出したまではいい。だが、それで終わりだ。異常がなければ、すぐにいたずらだったと考えるだろう」
〈成歩堂〉「異常があったとしたら?」
〈御剣〉「なに?」
〈成歩堂〉「思い出してください。キングさんの部屋の空調は32度に設定されていました。それだけで、すでに普段とは異なる状況です」
〈御剣〉[机を叩き]「だが、部屋の外に出れば火事ではないとすぐにわかる!」
〈成歩堂〉「もし、パーティールームに煙が充満していたら? 実際、パーティールームにいたフランケンさんのハムスターは窒息死していたんですよ」
〈真宵〉「え? もしかして、パーティールームは燃えていたの? でも、そんな痕跡はなかったんだよね?」
〈成歩堂〉「フランケンさんのハムスターは、全身がしっとりと湿り、文字どおり濡れ鼠の状態で死んでいました。火事に巻き込まれたのなら、そんなことにはなりませんよね? これはぼくの想像ですが、ハムスターは二酸化炭素の煙に巻かれて、窒息したのではないでしょうか?」
〈真宵〉「……二酸化炭素の煙?」
〈御剣〉「ドライアイスか!」
〈成歩堂〉[通路の写真を指し示し]「水の張られたバケツにドライアイスを落とせば、二酸化炭素が勢いよく噴き出します。キングさんは、それを煙と勘違いしたんでしょうね。簡単な時限装置を使えば、ドライアイスの気化する時間も調整できます。たとえば、バケツに氷の板を浮かべ、その上に細かく砕いたドライアイスを載せておけば、氷が溶けると同時に煙が発生しますから、証拠も残りません」
〈裁判長〉「なるほど。空気より重い二酸化炭素は床にたまりますから、それでハムスターは窒息してしまったんですね。かわいそうに」
〈御剣〉「あり得ぬ! 被害者がどれだけ酔っていようと、ドライアイスの煙を火災と勘違いするはずはない!」
〈成歩堂〉「火事と思わせるための仕掛けがもうひとつあったとしたら?」

                           つづく

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