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KUROKEN's Short Story 09

国語の教科書に載っていた星新一の「おーい でてこーい」にいたく感動した中学生のころ。ちょうど〈ショートショートランド〉という雑誌が発刊されたことも重なって、当時の僕はショートショートばかり読みあさっていました。ついには自分でも書きたくなり、高校時代から大学時代にかけて、ノートに書き殴った物語は100編以上。しょせん子供の落書きなので、とても人様に見せられるようなシロモノではないのですが、このまま埋もれさせるのももったいなく思い、なんとかギリギリ小説として成り立っている作品を不定期で(毎日読むのはさすがにつらいと思うので)ご紹介させていただきます。

ある夜の殺人

 物心ついた頃から生き物を痛めつけるのが好きだった。
 チョウの羽をもぎ、カマキリの頭をひねりつぶす。
 痙攣しながら死んでいく虫たちを見ると、全身がぞくぞくした。
 初めて猫を殺したのは十二歳のときだ。
 血反吐を吐いて痙攣する猫を眺めるうちに、僕は性的快感を覚えるようになっていた。
 人間を殺したら、もっと気持ちよくなれるのだろうか?
 その気持ちは日増しに強くなっていった。
 この世には、生きていても仕方がない人間がたくさんいる。
 一番くだらない男はあいつだ。
 あいつなら死んだところで誰も悲しまない。
 むしろ、感謝されてもいいくらいだ。
 よし。今夜、あいつを殺そう。

 「起きろ」
 その声で僕は目を覚ました。
 枕元の時計は夜中の三時過ぎを示している。
「……誰? こんな時間に?」
 僕は眠い目をこすりながら、目の前に立っている人影を見上げた。
「朝八時から大切な会議があるから、しっかり寝ておかなくちゃいけないんだ。邪魔しないでもらえるかな?」
「心配するな。おまえが朝を迎えることは二度とない」
 人影はいった。
「今からおまえは死ぬ。俺に殺されるんだ」
「え?」
 慌てて上半身を起こす。
「おまえ……誰だ?」
「…………」
 僕の質問には答えず、人影は右手に握っていた包丁を頭上高くに振り上げた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。どうして僕を殺そうとする?」
「自分の胸にきいてみるんだな」
 僕の胸に包丁が突き立てられた。
 風でカーテンがふわりと揺れ、窓から月の光が射しこんだ。
 僕を襲った人物が闇の中に浮かび上がる。
 驚いたことに、そいつは僕そっくりの顔を持っていた。
「おまえは……僕?」
「そう。俺はおまえだ」
 もうひとりの僕は笑いながら答えた。
(ああ……そうか……)
 薄れゆく意識の中で、ようやく理解する。
 殺人衝動をどうしても抑えきれない自分に、僕は激しい恐怖と嫌悪感を抱いていた。
 となれば、こうなるのは必然だ。
 断末魔のうめき声をあげ痙攣する自分の姿に、いまだかつてない快感と安堵感を覚え――そして僕は死んだ。

(1986年8月17日執筆)

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